ターン28 翠緑の谷の逆鱗
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貴重なお話ありがとうございました!」
「あ、うん。楽しかったよ、まったねー」
よほど見られたくなかったのか、挨拶もそこそこに顔を真っ赤にしてバタバタと嵐のように部屋を出ていく少女。その足音が完全に聞こえなくなったところで、ゆっくりと少女の出ていったドアから再びベッドへと向き直り、部屋の主へ説明を視線で求める。
「聞いた通り、お見舞いだってさ。それとほんの少し、背中を押してあげただけ」
「はあ?」
意味が分からない。困惑のままにもう少し詳細な説明を求めるが、当の清明はにこにこと笑ったままだ。表情こそ柔らかいが、どうやらそれ以上のことを答えるつもりはないらしい。追及は諦め、先ほどまで少女が座っていた椅子に腰を落とす。
「で、糸巻さんこそどうしたのさ。そろそろ退院しろってせっつきに来た?」
そう笑う清明は一応お義理のように包帯こそ巻いてはいるものの、その姿はどう見ても怪我人のそれではない。何気ない身のこなしの軽さといい、力強い目の光といい、いたって健康そのものだ。探るような視線に肩をすくめ、若干後ろめたそうに言い添える。
「そろそろタダ飯生活も飽きてきたしね、僕もそのつもりよ。骨もくっつけたし、怪我はとっくに治したから大丈夫」
「治したって……正直、アタシもそんな気はしてたけどな」
お前、本当に一体何者なんだ?続くその言葉は、口にする寸前で踏みとどまる。それは今日の本題ではないし、この少年が明らかに人間離れしていることは最初から分かっているじゃあないか。ゆっくりと首を振り、改めて切り出す。
「実は、うちの市長から打診があってな。感謝状をアンタに送りたいって話だったんだが」
「気持ちはありがたいけど、遠慮したいかなあ。僕も住民票とか戸籍とか、叩けばいくらでも埃が出てくる身だし……あんま表に出たくない」
「だろうな。そう言うと思って、それはアタシの方から丁重に断っといた」
予想通りの返答には驚きもせず、小さく頷く。
「ただまあ、今回の件ではそれが仕事のアタシらはともかく、デュエルポリスでもなけりゃ昔のよしみもないアンタがえらい貧乏くじ引いてくれたのも確かなわけだ。さすがに何もなしってのは、アタシのプライドが許さん。というわけで、まあ何か要望があれば言ってくれ。できればアタシにできる範囲で頼む」
「ふんふん。それ、八卦ちゃんにも言ってあげたら?」
「3時間ぐらい耐久でお姫様抱っこした話、そんなに聞きたいか?」
その時の記憶を思い出したのか若干げっそりした顔で息を吐く糸巻に小さく笑い、ふうむと顎に手を当てて考え込む清明。どこか心ここにあらずといったその様子に、おそらく彼にしか見えないし聞こえない例の神様、とやらと交信しているんだろうとピンときた。やがてその話し合いも終わったのか、そ
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