第42話「鋼の腕の伴奏者」
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取っ組み合った掌からは血が流れ始め、皮を破る痛みがじんわりと広がっていく。
「この言葉を知ってるか? 『大いなる力には、大いなる責任が伴う』ってな……。ドクター・ウェル……果たしてあんたに、力と共に背負った責任はあるかな……ッ?」
「どう取り繕おうと力は力ッ! 英雄となる者の身の丈に合っていれば、それでいいんですよッ!」
「お前の身の丈には余るって言ってんだッ! 歪んでる上に底が抜けたお前の器じゃ……英雄なんかになれはしないッ!」」
「黙れ……黙れ黙れ黙れえええええええええッ!!」
唾を飛ばして絶叫するウェル。その時、ツェルトの脳裏に右腕から何かが流れ込む。
(……ッ!? これは……)
流れ込んできたのは、彼の知らない光景。
賞状の並ぶ部屋と、膝を抱える銀髪の少年。
彼を罵倒する父親らしき人物に、彼を避けてひそひそと喋っている同年代の少年達。
それがウェルキンゲトリクスという男の記憶だと気付いた時、ツェルトは納得した。
(そうか……だからウェルは……)
それを垣間見た上でなお、ツェルトは──
「何度だって言ってやるッ! お前は英雄なんかじゃない。ただのテロリストでマッドサイエンティスト、多くの人々を泣かせた最低最悪のクソ野郎だッ!」
ドクター・ウェルを否定した。
「僕は……僕は、英雄だッ! この世界を改革し、人を新たな天地へと導く絶対の存在ッ! 僕は、英雄なんだぁぁぁッ!!」
「なら、俺は──ヒーローだ」
「──ッ!?」
両目はぎらつき、血管が浮き出たウェルの顔を真っ直ぐに見つめながら、ツェルトは静かにそう告げた。
「俺には世界なんて背負えない。でも、マリィ達の笑顔と、帰る場所くらいなら抱えていけるッ! 上なんか目指さなくていい、ただそうやって進んでいくだけでいいッ! お前が小さいと嗤ったこの在り方こそが……ヒーローの生き様だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
雄叫びと共に、ツェルトは取っ組み合っていた右手を引き剥がし、残った力を全て拳に込めて突き出した。
ツェルトの渾身の一撃は、ウェルに避ける暇さえ与えず、その顔面へと勢いよく命中した。
「か……は……ッ!?」
ウェルは後方へとぶっ飛びふらふらと後退ると、そのまま仰向けに倒れる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
そしてツェルトもまた、力が抜けたように膝を付くのだった。
ff
「セット、ハーモニクスッ! S2CAッ! フォニックゲインを力に変えてッ!」
拳を振りかぶった響は、迫っていた炎の塊を殴り、消し去る。
「惹かれあう音色に、理由なんていらない」
「……ん」
優しく手を差し伸べる翼。調は躊躇いがちに手を繋ぐ。
「あたしも、
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