第42話「鋼の腕の伴奏者」
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…。ぐ……ッ」
肘先から昇ってくる激痛に耐え、苦悶の声が漏れる。調整されていないLiNKERによる適合で、ネフィリムの細胞が侵食しているのだ。
LiNKERの量から計算して、侵食が進めばツェルトの右腕はおそらく肩口までネフィリムに喰われることになるだろう。
そうなった場合、ツェルトの身体はおそらく無事では済まない。同じく聖遺物との融合という観点から見ても、自立型完全聖遺物……一種の生物兵器とも言えるネフィリムでは、響や翔とは勝手が異なる。どんな弊害が起きるかなど、想像もつかない。
下手を打てば、移植したネフィリムに殺されることになってもおかしくないのだ。
「それ、でもなぁッ! 泣いてばかりだったマリィが、ああして戦ってんだッ! セレナも俺の背中を押してくれたッ! マムも最後の瞬間まで、世界の為に頑張っているッ! だったら俺は……何でも利用してお前を止めるッ! これからお前に打ち込むこの拳が、俺からの報復だッ!」
愛する人への、守りたい人達への想いを握り、ツェルトは痛みを捻じ伏せる。
彼から大事なものを奪い続けてきた暴食の化身を、逆に喰らうほどの感情で己の支配下に置く。
「最後だドクター……Here we goッ!」
「調子に乗るなああああああああッ!!」
ウェルの頭に、もはや逃げるという選択はなかった。
目の前にいるこの男だけは、この手で捻じ伏せなければ気が済まない。
事ある毎に突っかかって来たこいつだけは、前々から気に食わなかったこのガキだけは……自分が生み出したものを利用して、悲願の達成を目前で邪魔しようとしてくるこの男にだけは、絶対に負けられないのだ。
「はぁッ!」
「何をッ! このッ!」
「ぐッ! はぁぁぁッ!」
「ごふッ! くらえッ!」
拳と拳。一切の小細工無く、泥臭いだけの殴り合い。
そこに流麗な技など存在しない。ただ男二人の、絶対に譲れない意地があるだけだ。
何度も何度も、相手の目に付いた場所へと拳を突き出す。戦闘経験の差や身体のコンディションなど関係ない、この世で最も原始的な闘争。
単調で激しいだけの、不良の喧嘩にも等しいそれは、両者が互いの両手を組み合ったことで遂に拮抗した。
「こうなったら……喰らえ、ネフィリムッ!」
「ッ! へぇ、そう来るか……だったらこっちもッ!」
ウェルは左腕、ツェルトは右腕。それぞれ正反対の腕に移植したネフィリムは、取っ組み合う相手の腕が同族の細胞を持っていることを理解した瞬間、共喰いを始めた。
「君のネフィリムは未調整ッ! 完全に融合した僕には及ばないッ!」
「気力じゃ俺に利があんだ……お前なんかに絶対まけねえッ!」
互いに喰らいつき、喰いちぎろうとする両者の腕。
やがて、
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