第42話「鋼の腕の伴奏者」
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『……いさん……ツ……ルト……さん……』
……誰だ? 俺を……呼んでいる……?
いつの間にか閉じられていた目を開けると……暗闇の中をゆっくりと沈んでいく俺の見上げる先に、小さな人影が浮かんでいた。
『……にいさ……ツェルト義兄さん……』
その声は……セレナッ!?
俺の目の前までふわっと降りてきたセレナは、俺の顔を覗き込みながら口を開いた。
『ツェルト義兄さん。お願い、立って……。ツェルト義兄さんは、まだ負けてない』
……無理だよ、セレナ……。もう、身体が重くて動かないんだ……。
『ううん、そんな事ない。ツェルト義兄さんはまだ戦える。ただ、義兄さんが大切なことを忘れているだけ。それを思い出さなくちゃ』
大切な……事……? なんだよ、それ……?
『義兄さんが、マリア姉さんのヒーローになるって誓った日。あの時の気持ち、義兄さんは覚えてる?』
俺が……マリィのヒーローになりたいと願った日の……?
『そう。あの時、義兄さんが胸に誓ったもの。わたし、ずっと見守って来たから知ってるよ』
セレナに言われて、俺は記憶の糸を手繰り寄せていく。
あの日は……確か、8年前の──
ネフィリム起動実験から数日。あれからマリィはずっと塞ぎこんでいた。
元々泣き虫だった彼女だが、セレナがあんなことになって以来、笑わなくなっていた。
事ある毎にセレナの事を思い出しては、うずくまって泣いていたのを、今でも覚えている。
いつもは鞭を片手に厳しいマムも、この頃はマリアにかける言葉もないといった様子だった。
こういう時のカウンセリングはドクター・アドルフの仕事なのだが、セレナの治療に尽力し、寝る間も惜しんで上層部に掛け合っていたのもあって、間に合っていなかった。
そんなある日、ようやく俺の右腕に義手が取り付けられた。
ドクター・アドルフが、セレナの治療と同時並行で進めていた義手の作成。完成したそれは、肘から先を失った俺の腕に、ぴったりと合っていた。
生化学者であるドクター・ウェルの協力もあったらしく、俺の思い通りの動きを滑らかに、ほぼ生身の腕と変わらない精度で実現してくれていたその義手こそ、俺が普段使っているものだ。
「いいかツェルト。これはお前にしか頼めない事だ」
初めて義手を着けてもらった日、ドクター・アドルフは俺にこう言った。
「俺は今、クソッタレのボンクラ上司共に頭を下げながら、セレナを救う方法を探すので忙しい。だから、俺の代わりにマリアのカウンセリングを任せたいんだ」
最初、俺は突然の言葉に驚いて無理だと言った。医者ではないただの子供に、そんなことできるわけがないと。
だがアドルフ博士は、静かに首を振った。
「なに、そんな難しい事じ
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