第二章 勇美と依姫の幻想郷奮闘記
第34話 月の侍と冥界の侍
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る人がいないからであった。
だがかつてはいたのである。その者は妖夢の祖父でもある、彼女と同じ半人半霊である魂魄妖忌だ。
しかし、彼はある時悟りを開くと幽々子と妖夢を残して雲隠れしてしまったのだ。
故に妖夢はまだ精神的にも技術的にも学ぶべき所がある中で剣術指南役を強いられてしまった訳である。
余程の天才でもない限り、誰しも物事を教えてくれる者がいなくては成長は難しいだろう。──かく言う依姫とて永琳という師の教えがあってこそ、今の彼女がいるのである。
その事が分かるからこそ、依姫は今勇美に手解きを施している最中なのだ。
そして、師のいない妖夢にも少しでも自分から何かを学んでくれれば幸いと、今回の勝負を提案した訳であった。
「それと、貴方は一つ勘違いをしているわ」
「と、言いますと?」
依姫の意味ありげな発言に、妖夢は首を傾げて聞く。
「これは『貴方のため』だけではないわ。私も貴方と剣術での勝負をしたいから、お互いのためよ」
「あ、ありがとうございます」
その依姫の心遣いに、妖夢は嬉しくなり満面の笑みを見せた。
「では、始めましょうか」
◇ ◇ ◇
そして依姫と妖夢は永遠亭の庭園で向かい合っていた。──今宵三度目の勝負の幕開けである。
そこで、まず妖夢が口を開く。
「ですが良かったのですか? 依姫さんはお疲れでしょう」
その指摘通り、依姫は先程幽々子との戦いで、弾幕ごっこのルールに則ったとはいえ激戦を繰り広げたのだ。
そう懸念する妖夢に対して、依姫の代わりに勇美が答えた。
「大丈夫ですよ妖夢さん。依姫さんは無双した経験があるんですから♪」
「無双言うな!」
依姫は勇美に突っ込みを入れつつも、勇美の指摘は的を得ているなと思っていた。
自分は月で幻想郷の実力者達に勝ち抜いた経験があるのだ。故に今連戦しても問題ないだろうと。
勿論あの時も今も楽勝という訳ではないのだ。だが自らの成長の為に自身に課題を出していくのが依姫のやり方なのだ。
故に今依姫が選んだ選択肢に後悔はなかったのだった。
「前置きはそれだけで宜しいですか?」
「素敵な覚悟ですね」
自信の揺るがない依姫の態度に触発されて、妖夢も心に火が灯ったようであった。いつになくこれから刀を持つ手に熱が入る。
「では妖夢、貴方から来なさい」
「はいっ!」
依姫に促されて妖夢は意気込み──そして鞘に手を掛けながら彼女の懐に潜り込んでいったのだった。
申し分ない踏み込みだ、依姫はそう感じた。動きに無駄がない。
(だけど……)
依姫がそう思いを馳せている中、距離を詰めた妖夢は居合いの要領で手に掛けた鞘から楼観剣を引き抜いたのだ。
空を舞う白銀色の線。それが依姫に牙を剥こうと肉薄していった。
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