第一章
[2]次話
夜雀
近頃まだ出来て少しばかりの江戸の街に怪異の話が起こっていた、将軍徳川秀忠はその話を聞いてまずは眉を顰めさせた。
そのうえでその話をした旗本に対して問うた。
「別に襲いはせぬのだな」
「はい、これがです」
「きゃっきゃっと鳴きながらか」
「夜道に出まして」
それでとだ、旗本は秀忠の如何にも真面目そうな顔に話した。
「そう鳴いてです」
「そしてか」
「はい、笠の中でも袂の中でもです」
「鳴き声がしてくるのか」
「周りに黒い蝶々の様なものが数多く出て」
「それでか」
「夜に道行く者を悩ませておるそうです」
「そうか、江戸の街は今築いておる最中だが」
もっと言えば城もだ、家康が亡くなり数年経つが江戸はまだそんな中だった。秀忠はその面長で穏やかだが確かに生真面目そうな光を放つ赤い唇が目立つ顔で述べた。
「その中で難儀が起こるのは常であるな」
「はい、ですが上様」
旗本は秀忠に畏まって声をかけた。
「申し上げますが」
「うむ、何とかせねばな」
「民も不安がっていますね」
「話を聞くと鬼や普通のあやかしの類でもないな」
「ですから武芸者を送りましても」
例えそうしてもというのだ。
「そうです」
「退治出来ぬな」
「その様なものかと」
旗本は秀忠に述べた。
「それがしは」
「わしもそう思う、こうした時はな」
「どうされますか」
「和上に聞くか」
秀忠は考える顔で述べた。
「この度は」
「と、いいますと」
「うむ、天海和上じゃ」
秀忠はここでこの者の名を出した。
「和上の学識ならばな」
「このあやかしのこともですか」
「承知でじゃ」
「それでどうすればよいかもですか」
「わかっておるやも知れぬ、だからな」
「この度は、ですか」
「まずは和上に聞いてみるとしよう」
「そうされますか」
「まずはな」
こう言ってであった。
秀忠は実際に天海に話を聞くことにした、すると長く白い髭を生やした剃髪の老僧は楽しそうに笑って述べた。
「それは夜雀ですな」
「知っておるのか」
「かつて書で読んだことがあります」
こう秀忠に答えたのだった。
「拙僧も」
「左様であったか」
「ではです」
天海は秀忠に自分から名乗り出た。
「拙僧が一度出て」
「夜雀が出るところにか」
「はい、そうして」
そのうえでというのだ。
「ことを収めてきます」
「そうするのか」
「はい、供の者を一人連れて」
「一人だけでよいのか」
「ははは、むしろ拙僧一人で」
天海はいぶかしむ秀忠に笑って返した。
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