三十七 『 』
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ぼくは…いったい…だれ…なんだ…」
自分が何者かわからない。
支えであったノノウからの襲撃は、カブトの最後の砦を崩してしまう。
完全に己を見失っているカブトを、怪訝な視線で見ていた彼が何の気もなく、答えた。
「お前の名は『 』だろう」
は…、とカブトは顔を上げた。
岩壁に再び背を預けている人物は、カブトを静かに見下ろしている。
その表情からは何も窺えないが、確固たる自信が其処には確かにあった。
「なにを…根拠に…」
初めて聞いたはずなのに、得体の知れない誰かが告げた名は、確かにカブトの胸を強かに打った。
懐かしいとさえ感じる。
その名はカブトという名よりも己にしっくりと合っていた。
「ど、どうして…何故!!そんなことを言える!?どこでその名を…!?」
「先ほど、お前の傷を治した際、勝手ながら記憶を覗かせてもらった。お前自身は憶えていなくとも、その脳には確かに思い出として残っているものだ」
どうしても思い出せなかった名をあっさり答えた存在に、カブトは詰め寄った。
だが相手は飄々とした雰囲気で、取り去った眼帯を手持ち無沙汰に手のひらでもてあそぶ。
「お前の記憶は確かに、六歳以前は曖昧だった。記憶喪失は大きなショックが大半の原因。名前がわからないとなれば幼少期、何かの災害か人災に巻き込まれたのだと推測される。家族を失ったか、街を失ったか…もしくは両方か。それを考えれば、自ずと見えてくる。“桔梗峠の戦い”だ」
理路整然としているようで、矛盾している相手の言葉をカブトは呆然と聞いていた。
あの時、戦災孤児はたくさんいた。
その中で自分の名を引き当てるなんて、砂漠から一粒の米を探し当てるようなモノ。
それをあっさり看破してみせた男を、カブトは呆けながら見やった。
(まぁ、名前がわかったのは、本当は別の理由があるがな)
心の中の呟きは口には出さず、無梨甚八の姿をした人物はカブトを見つめる。
「信じる・信じないはお前の判断に任せる────ああ、そうか」
不意に、視線を虚空へ向けた人物を、カブトは胡乱な目つきで見上げた。
「…なんです?」
「念の為に、先ほどお前をクナイで刺した相手を影分身に監視させていたんだが…その報告が今、届いた」
「…マザー、を…?」
ビクリと肩を跳ね上げるカブトを、男は無表情で見返す。
「自害した」
「な、なんだって…!?」
得体の知れない誰かにもかかわらず、カブトは相手の胸倉につかみかかる。
その必死の形相を、何の感情も窺えない青い瞳で見返しながら、男は更に続けた。
「影分身が聞いた話では…お前と、お前が言うマザーというくノ一は、“根”に嵌められたようだ。お前とあの忍びをずっと監視してい
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