三十七 『 』
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騙るなんて…!」
自分をカブトだと認識してくれていない。
呆然と立ち竦むカブトは、敬愛するマザーが襲撃してくる光景を信じられない面持ちで見やった。顔を見てしまった手前、彼は反撃できない。隙だらけのカブトを訝しげに睨みながら、好機とばかりにノノウは一気に相手の懐に飛び込んだ。
ノノウの敵意が込められたクナイがカブトの身体に吸い込まれるように刺さる。
同時にその刃物は、否、ノノウの言葉はカブトの存在の根幹を突き崩してしまった。
「ど、うし…て…」
自分に名を与えてくれた人。眼鏡を与えてくれた人。居場所を与えてくれた人。
恩人であるノノウ本人に名を問われ、“自分が何者か”というアイデンティティをカブトは完全に見失う。
彼の悲痛の叫びが、聳え立つ岩々の間でむなしく響き渡った。
「これで…カブトは“根”から解放される…」
致命傷を与え、虫の息であるカブトを見下ろしながら、ノノウはゆらり、立ち上がる。
岩隠れの里への潜入任務。
長期に渡り、“根”からカブトの成長過程を写真で知らされていたノノウは、目の前で倒れ伏す男を見下ろす。
その写真が途中から別人にすげ替えられていることに気づかず、自分とカブトの共倒れを狙う“根”の策略だとも知らず、ノノウは安堵の息を吐く。
これで、カブトは自由だ。孤児院の為を思って“根”に入った優しいあの子は解放される。
カブトを解放する条件として暗殺するようにダンゾウに命令されていた任務。
それを、今、やり遂げたのだ。
今しがたクナイで突き刺したその人物こそがカブト本人だと知らず、岩隠れの忍びとしてナニガシという偽名を長期に渡って使っていたノノウはその場を離れる。
倒れ伏したカブトに音も気配も無く、近寄った存在に気づかずに。
「…う…」
呻き声をあげながら、カブトは眼を開けた。
ぼんやりとする視界。ぼやける光景に眼を細める。
スッと差し出された己の眼鏡を何の疑いもなく、朦朧とする頭で受け取ったカブトは、やがてハッと飛び起きた。
「────起きたか」
誰かが傍にいる。
警戒態勢を取ったカブトは、やがて己の身体に傷が無いことを理解した。
「…馬鹿な…致命傷だったはず…」
医療忍者だからこそ、わかる。
ノノウから受けたクナイは確実に致命傷だった。
岩陰で見えない人物が、動揺するカブトに素っ気なく答える。
「安心しろ。確かに致命傷だった」
どこも安心できない肯定の返答に、カブトは顔を顰めた。改めて己の身体を見下ろす。
やはり、傷は無い。
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