第一章
[2]次話
動かなくなった子犬が
花形美和はこの時興奮しきっていた、家で飼っている白い秋田犬のミミが子供を産むからだ。それで母の千文に言うのだった。
「もうすぐよね」
「ええ、もうすぐよ」
母は自分によく似た赤がかった茶色の髪の毛をおかっぱにした大きな目を持つ七歳の娘に笑顔で答えた。
「赤ちゃんが生まれるわ」
「そうよね」
「ワンちゃんの赤ちゃんは沢山生まれるから」
母は娘にこのことも話した。
「そのことも覚えておいてね」
「人間とは違うのね」
「そうよ、ワンちゃんや猫ちゃんは一度に沢山赤ちゃんを産むのよ」
こうした生きもの達はというのだ。
「だからね」
「そのことはなのね」
「美和ちゃんも覚えておいてね」
「うん、わかったわ」
美和は母の言葉に笑顔で頷いた。
「何匹も生まれるのね」
「そのこと覚えておいてね」
「そうするね」
「さて、何匹生まれるかしら」
母は夫の秀治、サラリーマンをしている彼と共に今まさに子供を産もうとしている白い毛のミミを見つつ言った。
「一体」
「お医者さんが言うには七匹らしいな」
眼鏡をかけてスポーツ刈りにしている夫はこう答えた。
「子供は」
「そうなの」
「もう7引き取り手も見付かってるしな」
「皆犬好きだからね」
「どの子も大事にしてもらえるし」
「ミミも安心ね」
「しかもどの人もご近所だから」
夫は笑顔でこうも言った。
「会えるし」
「ミミに悪いことはないわね」
「本当にな、ただ今回の出産が終わったら」
夫は妻にこうも言った。
「不妊手術受けさせるか」
「そうね、流石にまた赤ちゃんの貰い手探すのは大変だし」
「生まれた子を捨てるとかしたら絶対に駄目だしな」
「ミミが落ち着いたらね」
「病院連れて行こうな」
不妊手術を受けさせる為にというのだ。
「そうしような」
「それじゃあね」
夫婦でこうした話をした、そしてだった。
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