第39節「撃槍」
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レベーターでブリッジまで移動中のウェル博士は、殴られた頬をさすりながら地団太を踏んでいた。
「くそッ、ソロモンの杖を手放すとは……こうなったらマリアをぶつけてやるッ!」
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その頃、フロンティアのブリッジでは、マリアがすすり泣く声が響いていた。
『マリア……もう一度月遺跡の再起動を』
「無理よッ! 私の歌で世界を救うなんて……ッ!」
『マリアッ! 月の落下を食い止める、最後のチャンスなのですよッ!』
自分の歌が世界に届かなかった現実に打ちひしがれ、泣き叫ぶマリア。
その最悪のタイミングで……ウェル博士がエレベーターから降りてきてしまった。
「……ッ!」
虚ろな目で立ち上がるマリア。
ナスターシャ教授の言葉とマリアの様子から全てを察したウェルは、ネフィリムの腕でマリアの頬を思いっきり殴りつけた。
「バカチンがッ!」
「あぁ……ッ!」
「月が落ちなきゃ、好き勝手出来ないだろうがッ!」
『マリア!』
「あ? やっぱりオバハンか……」
ウェルは再びコンソールに触れると、何かのコマンドを起動し始める。
『お聞きなさい、ドクター・ウェルッ! フロンティアの機能を使って集束したフォニックゲインを月へと照射し、バラルの呪詛を司る遺跡を再起動できれば──月を元の軌道に戻せるのですッ!』
「そんなに遺跡を動かしたいのなら、あんたが月に行ってくればいいだろッ!」
操作を終えたウェルが、掌で思いっきりコンソールを叩く。
直後……轟音と共に、エネルギー制御室が切り離され、宙へと打ち上げられる。
複合構造船体──星間航行船であるフロンティアの特徴のひとつに、各部が独立機能したブロックに分けられており、それらが複合的に組み合わさることでひとつの巨大な構造体として成立しているという点がある。
利点としては、用途に合わせた機能拡張がしやすいところ。それに加えて、ブロック単位での切り離しが容易であるため、長期に渡る航行中に発生するトラブルに対しても外科手術的な即応が可能なところがあげられる。
ウェルはそれを利用し、一番邪魔なナスターシャ教授を大気圏上へと追放する為に使用したのだ。
「──マムッ!」
「有史以来、数多の英雄が人類支配を成しえなかったのは、人の数がその手に余るからだッ! ──だったら支配可能なまでに減らせばいいッ! 僕だからこそ気づいた必勝法ッ! 英雄に憧れる僕が英雄を超えてみせる……ッ! ふへははは……うわーはははははあ……ッ!」
打ち上げられたロケットのように、煙を尾に引いて月へと向かって飛んでいく制御室。
耐Gへの充分な準備も対処もないままに、大気圏を一瞬突破するだけの推力で射出されたエネルギー制御室には、すさまじいばかりの加速度が圧し
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