第四章
[8]前話
明子は一見普通の一家の三人の人相と目の光そして雰囲気にこれ以上はないまでの卑しいものを見た。それでだった。
思わず顔を顰めさせたが祖父母は冷静だった。そして武者小路が中心になって一家のきなこは自分達の犬だから返せという勝手な話を聞いたが。
話を一通り聞いてから武者小路は一家に言った。
「あんた達はきなこを保健所に捨てたな」
「そ、それは」
「何というか」
「そのことだけれど」
「有名になったから欲しいか、そんなのが家族か」
こう一家に言った、そして。
孫娘にきなこを今自分達がいる家の中の和室、客と会うその部屋に連れて来る様に言った。そしてきなこが部屋に入ると彼に問うた。
「きなこ、わし等とこの人達どっちが家族だ?」
「わし等だな」
「きなこもう一度可愛がってあげるわ」
「こっちに来て」
一家はもの欲しそうな目できなこを見て彼に声をかけた、そうして必死にきなこに声をかけるが武者小路も彼の妻も動かない。
孫娘は祖父母を見て自分もそうした、そうしていいと二人を見て確信したからだ。そうしてでだった。
きなこは動き出した、すると。
一家には目もくれず武者小路の膝の上に乗った。
「ワンワン」
「こういうことだ、わかったな」
武者小路はそのきなこを見て驚く一家に沈着な声で告げた。
「わかったら帰るんだ」
「うう・・・・・・」
一家は歯噛みした、だが。
そっぽを向くきなこと武者小路達三人の鋭い怒ったかつ汚いものを見る目に負けた。そうして文字通りに逃げ去った。
そして後日武者小路はこの一家がご近所と下らないかつ醜いトラブルを頻発させて夜逃げしたことを知った、彼はそのことを聞いて妻に言った。
「そんな連中だから犬を飽きたと言って捨てるんだ」
「そうよね」
「そんな連中だ、取るに足らない」
「本当にそうね」
「だがわし等は違う、これからもきなこと一緒だ」
「何があってもね」
「当然だ、きなこは確かに踊れる様に仕込んだが」
それでもというのだ。
「踊れなくてもきなこはきなこだ」
「本当にそうね」
「そのことは何があっても変わるか、きなこもそれでいいな」
「ワン」
きなこも明るい声で応えた、そしてだった。
この日も彼と一緒に楽しくダンスの練習をした、そうしてまた家に来た明子との散歩に出た。その尻尾はいつもぱたぱたと振られてとても楽しそうだった。
踊る犬と腐りきった家族 完
2020・6・21
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