第38節「先輩」
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クリスの弾丸を叩き落し続け、翼の足元には既にいくつもの弾丸が転がっていた。
だが、既に彼女の精神はギリギリだと言ってもいい。
その上、首輪の点滅は徐々に早まり始めている。既に時間がないのだ。
『ちゃっちゃと仕留めないと、お友達は一生このままですよ?』
「くッ……」
そして、クリスもそれには気づいていた。
(操られた天羽奏……それに加えておそらく、あの首輪があの人を従わせているのか──クソッタレがッ!)
もう既に猶予はない。このままでは二人とも爆死してしまう。
だから、これ以上は引き延ばせない。次が勝負だ。
「犬の首輪はめられてまで、あんたは何がしたかったんだ?」
クリスの言葉に翼は俯き、肩を震わせる。
「私は……これ以上、不要な犠牲を出したくなかったのだ……。その為なら、たとえ裏切り者の汚名を被ることになろうとも……そう決めた筈なのにッ! でも……奏が生き返るならって気持ちもあって……だから……」
翼の目元に、何かが光る。
「私の覚悟が足りなかったばっかりに……気が付けばこの有様だ……。私は……わたしは、どうすればよかったのよッ!」
両目の端から、大粒の涙を零す翼。
それは、生来の責任感の強さと、亡き友を思う心の弱さに押し潰された少女が、防人の矜持の裏に隠したものだった。
だからこそ、クリスは叫ぶ。
照れくさくて言い出せなかった、自分の素直な気持ちを。
翼に対して抱いていたものを、包み隠さずぶつける。
「だったら……てめぇ一人で抱え込むんじゃねぇよッ! 頼りないかもしんないけどさ、あたしらを頼ってくれたっていいじゃねえかッ! それは別に、恥でも何でもねぇ……仲間として、当たり前の事だろッ!」
「──雪音……」
「道に迷ったときは言ってくれ……。あんたが道を見失わないよう、あたしらがついててやる。そして迷いを振り切ったら、また、いつものかっこいいあんたに戻ってくれッ! だってあんたは、あたしの──あたし達の先輩なんだからよッ!」
「──ッ!?」
その言葉は、クリスの口から初めて出た、翼への素直な感情……。人生で初めての『先輩』へと向けた敬意だった。
普段は素直になれず、自分の本当の感情をひねくれさせてしまうクリス。
そのクリスが、自らの感情を真っ直ぐにぶつけてくれている。自分の事を仲間と呼び、尊敬する先輩として見てくれている。
(そっか……。先輩だから、歳上だからって、肩肘張ってる必要無いんだ……。わたしの弱い所も見た上で、雪音達は受け入れてくれる。支えてくれる。そして、成長していくのか……)
手本であるばかりが先輩ではない。頼られるばかりが先輩ではない。
時に後輩に支えられる、相互の関係。
それこそが先輩、後輩と呼ばれるものな
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