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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第二十三話 旧友、二人 (下)
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「おいおい」
 新城は思わず天井を仰いだ。
 ――この男も存外に頑迷なところがあり、非常識なことを口走る癖がある。誰に似たのやら。

「〈帝国〉軍の幕営に来いとか言われたからな。
戦争している間に国を沈めかねない無能の所に行くか、てな。
勝って帰れば反乱祭り、なんてゴメンナサイ、だ。軍事大国でも行政がダメなら遠からず自壊するさ。所詮、軍事なんて行政の一分野に過ぎんよ。
確かに国家の命運は担う分野だ、だがそれが国政の全てでは断じてない。それが解らない君主についていく気はないよ」

「まぁ貴様らしいとだけ言わせてもらうよ、――まったく、よく首が繋がったまま帰って来られたな、不敬罪に問われても不思議じゃないぞ。
確かに俘虜は〈大協約〉で守られてはいるが、だからと言って帝族を挑発するような真似を好き好んでするのは余程悪趣味な馬鹿者だけだろうな」

「多感な時期に悪趣味な馬鹿者と知り合ったからな、無理もない――だが俺はそう馬鹿じゃないさ、言質と証人はしかと見つけておいたさ、後は向こうの自制心に賭けたわけだ」

「当然ながら護衛の武官が隠れていただろうから――帝族の意地もあり、か。
初の外征なら実績もなく、尚更によけいな失策は避ける必要がある。
貴様、本当に軍監本部向きだな。陰謀、肝謀、無謀の三つ揃いだ」

「失礼な、深謀遠慮の智将と呼べ」
 そういって豊久は胸を反らす。
「――フッ」
新城が口を歪めると
「ククッ――」
その旧友も笑い声を漏らし――そして二人は声を上げて笑いあった。


同日 午後第二刻 馬堂家上屋敷 玄関
馬堂家嫡男 馬堂豊久



帰還の途に着く新城を観察する。
「それではまた今度」
機嫌良く見える。
 ――少なくとも今は問題無いか。

「あぁ、態々来てくれて有難う。御陰で俺も|色々と(・・・)知りたいことを知ることが出来たし何よりも気分転換になった」
 ――こうした時は人の痛みを理解できる友人は有り難い。
内心では感謝しているが、口には出さない。
「義兄上も直ぐに貴様に会うが宜しく、と」
「あぁ、若殿様にも宜しく言っておいてくれ。――あぁ、そうだ」
 ――いかん、忘れていた。
慌てて懐から北領で愛用していた短銃を取り出す。
「――これを」

「おい、良いのか?」
新城が目を見張る。豊久が大尉に昇進した際に送られたものであることは新城も知っていた。蓬羽兵商が抱えの職人を使って作らせたものでこの(大協約)世界では数丁しか存在しないものである。
「あぁ、大丈夫だよ。蓬羽から帰還祝いに新しいものが届いたばかりだ。
今度のは、最新式のものでな。大隊に顔を出した時にでも試し撃ちに付き合ってくれ」

「――ならば、これは貴様のお古か」
 そう言いながら
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