第50話 第四四九〇編成部隊
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イニー・ブライトウェル……旧姓リンチの後姿を、俺はまともに見ることができない。
ケリム星系第七一警備艦隊で副官をしていた時、ブラックバート掃討戦以前に二回、エジリ大佐逮捕後には一〇回ほどリンチ司令官の家に呼ばれて顔を合わせている。当時はまだ一一歳か一二歳で、ようやく母親と一緒に料理を作り始めたという歳だった。個人的にも妹らしきものが一人増えた(実はアントニナやフレデリカと同い年)くらいにしか思っていなかった。
リンチがトリプラ星系の偵察戦隊司令官に転属になった時、ハイネセンに戻っていった記憶がある。エル・ファシルの一件の時、彼女はどこにいたかまではわからない。だが少なくともエル・ファシルの一件で人生が五四〇°ぐらいは変わってしまったのは間違いない。星系防衛司令官のお嬢さんから民間人を見捨てた卑怯者の娘へ。大量にジャンバラヤを作って喜んでいた少女は、顔に大人ぶり以上の冷気と厭世感を漂わせた軍属に生まれかわっていた。
そんな彼女が淹れたPXで売ってる二流茶葉のダージリンを傾けつつ、俺は机に備え付けられた端末で、宇宙艦隊司令部から送られてきた二四五四隻分の艦長と艦自体のデータをざっと眺めていき、前部隊の戦歴も含めて簡単に頭の中で整理する。俺は士官学校を出てまだ四年。艦隊戦闘など経験したことのない一介の少佐にできることは、基本に則って編成を組むことだろう。爺様もそれ以上のことを望んではいるだろうが、期待はしていない。
指揮官はどのように兵力を運用するか。基準とすべきはビュコックの爺様の戦術構想だ。爺様がマーロヴィアに行く前の経歴は何度も漁ったことがある。二等兵として徴兵されて以降、艦隊規模の会戦だけで二九回参加。分隊指揮官としては数知れず、隊指揮官として五〇回、戦隊指揮官として一二回、任務部隊指揮官として五回指揮を執っている。
幸いというべきか、当然というべきか、爺様はまだ生きているのでその大半の戦闘報告書はデータとして残されている。近々は勿論任務部隊のもので、第四艦隊と第七艦隊でそれぞれ六〇〇隻程度の指揮を執っていた。五回とも艦隊規模の会戦であるので、部屋にブライトウェル嬢しかいないことをいいことに三次元投影装置でその会戦のシミュレートを見る。爺様の部隊だけ表示色を変え、その動きと戦果を指揮官からの命令と時系リンクさせてみると、なかなか面白いものが見れる。
誤解を招く言い方だが爺様は『時折上官の命令に忠実には従っていない』が『上官が望む結果を確実に得ている』。例えばあそこに行って火線を引いて敵の勢力侵犯を阻止せよ、という命令に、移動を殆どせずに三斉射しただけで敵部隊を追い散らし、その後で悠然と指示された座標に移動しているので、見る人間の立場と視野からしたら小憎たらしいことこの上ない。
これは扱いにくい部下だっ
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