第37節「君ト云ウ 音奏デ 尽キルマデ」
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『僕に協力して欲しいのですよ。死者を蘇らせる、僕の実験に……』
最初にその話を聞いた時、私は馬鹿なと一蹴した。
しかし、ウェルの語る理論は机上の空論にしてはとても筋が通っており、確信に満ちていた。
生弓矢の力で櫻井女史が蘇る瞬間は、私もこの目で見た事実だ。
この私が僅かな希望として縋ってしまうには、充分過ぎる程に……。
迷いはした。 普段の私であれば、こんな事で揺れる事など有り得ない。
でも……もし、奏にもう一度会えたとしたら……。
もしも、奏とまた肩を並べられるのなら……。
そんな誘惑に抗えないほど、私の心は弱っていた。
そして私は……奏のために、唄ったのだ──
ff
「どういう……事だ……ッ!? 奏さんは二年前の惨劇で……」
目の前に立つガングニールの先代装者、天羽奏。
既に故人である筈の彼女の姿に、純は驚きを隠せなかった。
「古来より、死者を蘇らせる神話や伝承は世界各地に点在しています。彼の聖人の手による神の奇跡、アスクレピオスの蘇生薬、中国の尸解仙……挙げればキリがないでしょう。なにせ永遠の命と並ぶ人類普遍の夢ですからねぇ」
「その禁忌に、お前は手を出したってのか……ッ!」
「ええ。ドクター・アドルフに見解を求められた時、ピンときましたよ。これこそが僕の求めていた力、人類の夢だとねッ!」
「確かに生弓矢は死者を蘇らせる聖遺物……だが、それには相当量のフォニックゲインが要るはずだッ!」
「ええ、確かにそうですよ。“生弓矢”の場合は、ですが」
「どういう意味だ……?」
含みのある言い方に、純は困惑する。
科学者という生き物は、他者に説明している時間が一番楽しいらしい。ウェルはそのまま楽し気に話を続けた。
「生弓矢が司るのは、生命エネルギーを活性化する力。たとえ瀕死の重傷を負っていても、それを癒し、身体に生命力を満ちさせる力です。しかし、既に死んでしまった者には効果がありません。増幅する生命エネルギーが0なんですからね。その場合、必要になるのは生弓矢に備えられたもう一つの機能……他者の生命エネルギーを注ぎ込む力、それが生太刀です」
「生命力を活性化させる生弓矢と、他者から分け与える生太刀……」
しかし、そこで純は疑問を浮かべる。
「ちょっと待てッ! 奏さんは死体も残らず塵になったはず……生命エネルギーどころか、肉体がこの世に存在しないんだぞッ!?」
「ええ、そうです。そこで最後の機能ですよ」
「最後の機能……それが天詔琴の力……?」
ウェルは右手に握った楽器を自慢げに見せびらかす。
無邪気に新しい玩具を自慢する子供の顔に狂気が入るだけで、こうも醜くなるものだと彼を見た者は思うだろう。
「魂の正体とは、何だと思います?」
「魂
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