我妻由乃
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アに寄りかからせながら、幸輝は携帯を取り出し、日記を記す。
『突然、条河さんが僕に話しかけようと寄ってきた。下の階で、どうやらまだ追いかけているようだ。香風さんも、僕に話しかけようとしてきた。別にいいのに』
はあ、とため息をついた瞬間、ガタゴトと音が聞こえる。
逃げている最中、ということで物音に敏感になっている幸輝は、その発生源が掃除用具入れにあることを突き止めた。恐る恐るそれを開けると、
「ユッキー?」
満面の笑みの同級生、我妻由乃がいた。
「うわぁ!」
思わず背中を地面につける幸輝に対し、由乃はその体の上を張ってくる。
「ねえ、ユッキー。私、とうとう手に入れたよ」
「な、、なに……? 我妻さん、どうしてここに?」
「だって、私、ユッキーのことだったらなんでも分かるもの。今日追いかけられたから、きっとここに来るって。きっと物音を立てれば、ユッキーは私に気付いてくれるって」
「待って、我妻さん。どうして僕を……?」
「だって私、ユッキーが好きで好きで仕方がないもの。ユッキーのために私、魔術師になったんだよ? 今、私とユッキーの愛の巣を作るために、戦っているんだよ?」
「何を言っているの、我妻さん」
「だからユッキーも、私を受け入れて。私、いっぱい殺すから、ユッキーは私を受け入れてくれるだけでいいの愛してくれるだけでいいの。ね? ユッキー」
顔が、幸輝の目と鼻の先に来た。彼女の瞳に、驚きおののく自分の姿が映る。彼女の吐息が鼻と口に当たる。彼女の髪一本一本がくっきり見える。
始めは、由乃という美少女が迫ってくるということもあり、少し満更でもないと考えていた幸輝だが、その考えが変わった。
由乃が、耳元でささやく。
「だからね、ユッキー。ユッキーはこれから……受験も大学も成人式も就職も結婚も出産も出世も退職も老後も葬式も来世もその次もその出産時も入園時も入学式も卒業も……ずっとずっと一緒だからね?」
刹那、頬に生ぬるい感触が押し当てられる。由乃が犬のように舌で頬を舐めずったことを、幸輝の脳が理解を拒んでいた。
「我妻さん……怖い……」
焦点の定まらない、大きく見開いた目。
一言一言いうたびに、口を大きく開く挙動。
そして、ほとんど会話したこともない幸輝へ、愛だの何だのと口にする彼女を、幸輝は恐怖しか覚えなかった。
そして。
「助けて……誰か……」
「うん? ユッキーをいじめるやつは、皆皆……」
殺してあげる。
そう聞こえたのかどうか、幸輝には分からない。
ただ、確かに聞こえたのは、
由乃のものではない、くぐもった音声。
『ウィザード』という電子音だけだった。
「ほむらちゃん
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