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神機楼戦記オクトメディウム
第15話 泉美の初陣と、神聖なる拳の者:後編
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答えるのであった。
「そうですね。ではあなた方は私がボクサーを引退している事は聞いた事があるでしょう?」
「ええ、間違いないわね」
 その高嶺の問いに答えたのは千影であった。忍者という役職にある彼女はその性質上とでも言うべきか、自身の肉体を行使した職に就く者の事を良く調べる方向性があったが故に。
 その千影の返答を聞きながら高嶺は続ける。
「それなら話は早いですね。私はボクシングの試合でのダメージにより視力が低下して、そのまま試合を続ける事が出来なくなってしまったのです」
 その後は、タレントとしても活躍していた彼はそれ一本に絞り、そこから得られる収入で生活を送っていたとの事であった。
 故に彼は生活の為のお金には困る事はなかったのであった。
 だが、それで彼の心が充足していた訳ではない事は、何か自分の生きがいを持った人になら分かるのではないだろうか。
 十分な収入を得て飯が食えても、当然彼の胸の内にはポッカリと空洞が出来たかのような感覚であったのだ。
 勿論、それを彼はテレビの前ではその素振りを見せる事はなかったのである。テレビの放送とは出演者の本心を隠してなんぼのものなのであるから。
 そこまで聞いて、泉美は確信に至ったのであった。
「そこで、シスターミヤコがやって来たという事ですね」
「ええ、突如として彼女は私の前に現れて言いました。『夢を続けられないような世界など、壊してしまいましょう』と」
 勿論、そのような馬鹿げた言葉には普通ならば耳など貸さないだろう。しかし、知っての通り、彼女の放つ言葉には大邪の意思が籠められている為に強力な魔力めいたものが存在するのであった。
「八雲さん、あなたもその経験があるから分かるでしょう?」
「ええ、あの人の言葉は他人の深層心理に入り込んで来るのは良く分かったわ」
 高嶺のその言に泉美も同意する所であった。これは、経験した者同士故に分かる事なのだと。
 故に大邪には警戒をしなければならない。だが、一方で泉美はこの事も言っておこうと思い、それを実行に移す。
「でも、恐らくあなたの視力は大邪の力で回復している筈です。でなければ、先程のような巧みな戦い方は出来ないでしょうから」
「……」
 その泉美の言葉を無言で聞く高嶺。それは、こうして今大邪の呪縛から解放されたが故に、その事を良く理解出来るのであった。
 そんな彼に、泉美はこう締めくくった。
「『怪我の功名』なんて言うべきではないかも知れないけど……この好機を利用してはみませんか?」
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