第36節「戦場にセレナーデを」
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楽しみはこれからですよ……くひひひひ……ッ!」
口元を釣り上げて嗤うと、ウェルは弓を引く。
次の瞬間、純の頭上から何者かが飛びかかる。
「──ッ!?」
気配を察知した純がその場を飛び退いた直後、激しい音と共に、先程まで彼が立っていた場所が陥没した。
「な、なんだ……ッ!?」
純は盾を構え、追撃に備える。
煙はやがて晴れ始め、その奥から襲撃者のシルエットが浮かび上がる。
そのシルエットは、とても女性的だった。
シルエットからでも分かる、豊満な胸部。
身長は高めで、まるで鳥の羽毛のような長い髪は風にたなびいている。
地面に突き刺さっているのはおそらく、彼女の得物だろう。
そして何より目を引いたのは、柄の先を足場にされているその得物だ。
色は白いが、その槍は間違いなくマリアのアームドギアと同じものだった。
「白い、ガングニール……ッ!?」
まさか、とは思った。
有り得ない、と目を疑った。
しかし、風に剥がされたヴェールの向こうから現れた彼女の姿に、純は絶句した。
崖の下から見上げるクリスも驚きに目を見開き、翼は目を伏せた。
「アタシを楽しませてくれるのは……お前か?」
「どうして……どうして、あなたがここに……ッ!?」
かつて戦場に消えたはずの生命。
死体すら残さず塵となり、この場に立っているはずのない人物。
人としての生を捨て、戦士と生きて死んだ片翼の奏者が、仮面の奥で笑っていた。
ff
ブリッジのモニターにも、戦場で対立する二組の様子は映し出されてる。
当然、調と切歌の戦いの様子も……。
「どうして、仲の良かった調と切歌までが──私の選択は、こんなものを見たいがためではなかったのに……ッ!」
モニターの前で膝を着き、泣き崩れるマリア。
そこへ、制御室のナスターシャ教授からの声が届く。
『マリア』
「──マムッ!?」
『今、あなた一人ですね? フロンティアの情報を解析して月の落下を止められるかもしれない手立てを見つけました』
「え……ッ!?」
驚くマリア。
心を降り砕かれた彼女の耳に届いたのは、ナスターシャ教授が見つけ出した、最後の希望だった。
『最後に残された希望──それには、あなたの歌が必要です』
「──私の、歌……」
ff
「はぁ、はぁ、はぁ……ッ!」
「大丈夫か、響……ッ!」
マリアの元へ向かう翔と響は、F資料にあったフロンティアの内部構造を頼りに走り続けていた。
「これくらい……へいき、へっちゃらッ!」
「なら、もうひと踏ん張りだ……もうすぐ入り口だぞッ!」
背中を押してくれた彼女の言葉を胸に、二人は走り続ける。
目指す中央遺跡はもう目の前だ
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