第82話『キャンプ』
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魔術部の部室ではなく、ただの調理場。当然一般人の目がある。迂闊に魔術を使ってはいけない。
「…今の見られてないよね」
「…だな」
辺りを見回し、誰もこちらを見ていなかったことにホッと一息。危ういところだった。
とりあえず何事も無かったかのように、きちんと着火器で火をつける。
そしてそのままカレー作りは順調に進み・・・
「最後にルーを加えて、後は煮込む!」
鍋の蓋を閉めて、ようやく晴登は大きく息をついた。ご飯の方ももうすぐ出来上がるようなので、これで後は待つだけである。
わかっていたことだが、人に指示するのってやっぱり大変だ。自分で作る方が余程気楽である。でも、
「お疲れ、三浦君」
「柊君こそ。いや〜完成が楽しみだな〜」
狐太郎に労いの言葉をかけられ、晴登もお返しする。
そう、これは晴登1人が作ったものではなく、皆で作ったカレーだ。だからこその、楽しみと喜びがある。
しかし、狐太郎の表情はあまり明るくない。
「どうしたの? 柊君」
「…僕、こんな風に皆とカレーを作ったりするの、初めてなんだ」
「え、そうなの?」
「小学校の頃から不登校だったから、今までキャンプとか行ったことないんだよ」
「あっ…」
俯きながら語り始める狐太郎に、晴登は何も言葉を返せない。薄々わかってはいたが、本人の口から告げられてしまうと、やはり心苦しい事実である。
「今回の林間学校も、三浦君に誘われなかったら参加してなかったと思う。行ってみたいと思ってたけど、一歩が踏み出せなかった」
「でも、来てくれた」
「…うん。三浦君が一緒なら、大丈夫だろうなって」
「そ、そっか、それなら良かった」
はにかむ狐太郎に、晴登は頬を掻きながら答えた。気恥ずかしくて、ものすごくムズムズする。こんなの柄じゃないって思うのも、もう何度目だろうか。
彼なりにいっぱい悩んだのだと思う。クラスメイトのこともその他の人のことも、信用していない訳じゃないはずだ。それでも、彼の中に根付く何かが邪魔をしていた。
だから、これだけは伝えておかないといけない。
「絶対、忘れられない想い出にしよう! 最高の林間学校にするんだ!」
「三浦君…」
月並みな言葉ではあるが、これは晴登の本心だ。今まで彼が参加できなかった分も全部、今回の林間学校で彼に想い出として届けてあげたい。
「そのためなら、俺にできることは手伝うからさ」
「うん…ありがとう!」
「ちょっ!?」
感極まったのか、涙を浮かべながら狐太郎は晴登に抱きついてきた。予想外の行動に、晴登はどうすればいいか戸惑ってしまう。
いや待ってく
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