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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第49話 オルタンス邸
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えているのはわかっていて、老練なビュコック准将を送り込んだ。准将が切り開いた道を別の人材で舗装すれば、時間がかかっても治安回復は可能だと見込んでいた。早急な司令部内の綱紀粛正を見れば、軍の構想は間違いではなかったんだが……」

 司令部内の汚職で空いてしまった穴を、軍は早急に埋めることができなかった。情報部のフォローもあって提出された「草刈り」作戦において、軍は奴に付け入る隙を与えてしまった。そしてブラックバートの撃滅という明らかな大戦果。治安組織の長が拘束されたということも、行政の不始末というより綱紀粛正が適切に働いたと理解され、それはあの滑らかな弁舌によってトリューニヒトの功績と誤解された。

「軍内部にも奴の尻馬に乗りたい奴が大勢いる。特に後方や支援、軍政といった、実戦部隊側から軽く見られていた分野の連中に多い。かくいう俺も後方勤務側の人間だから、連中の気持ちも分からんでもない」
「……」
「あとはエル・ファシルの一件だ。ヤンの行動はもちろん賞されるべきだが、それでも駐留軍が民間人を見捨てて逃亡したことは間違いない。実際のところ民間人の軍に対する信用度は低下している」
「民間人からの信用度は、民主国家における権力の基盤、ということですか」
「お前さんやヤンが悪いというわけではない。だが残念なことに一議員の跳梁跋扈を許すほど、軍の体面は傷がついているし、積極性と影響力は低下してしまった。それでまぁ、お前さんの今後にケチが付いたってわけだ」

 軍が行動に積極的になる、というのはあまりいい傾向ではない。今回のことも、帝国との開戦以来、そしておそらくイゼルローン要塞の築城以降攻撃選択権が帝国側に握られ、対応するために組織を巨大化してきた同盟軍の、新陳代謝能力の低下が顕著になってきたということだろう。
 そして事は軍部の問題だけではない。原作で同盟側登場人物の多くが危惧している、民主政治全体の活力が低下していることの証左でもある。

「それで私の待命期間が延びているわけですね」
「たぶん今回は押し切れるだろう。ビュコック司令官も少将に昇進されたし、トリューニヒトの厚顔を苦々しく思っている軍人は統合作戦本部にも宇宙艦隊司令部にも多い。なにしろエル・ファシルに恒久的軍事基地を築かれる前に対処の必要があるからな」
「それなんですが、エル・ファシルへの制式艦隊の出動は考えていないのですか?」
「数が足りないんだ」
「……そうですか」

 キャゼルヌの口調が一瞬変わったのは、俺に言えないことを知っているからだろう。

現在同盟に艦艇一万三〇〇〇隻を基準とする制式艦隊は第一から第一〇までの一〇個艦隊が整備されている。今のところ欠番がないのは、ここ一・二年で艦隊が消滅するような大敗を喫したことがないおかげだ。そして現在この一〇個艦隊
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