第五部〈皇国〉軍の矜持
第七十九話 虎の川を越え、城より出でて
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は十分であったし、ましてや山道において導術と組み合わせた運用は悪夢に等しい存在と化した。
幾つもの欠点がある兵器であったが長きにわたり細々と改良を重ねて使われた続けたのは小回りが利く、という利点が軍隊においてどれほど重要な物かを示すものであった。
十月十日 午後第三刻
駒州軍司令部 参謀長 益満少将
最後に動き出したのは〈皇国〉軍最精鋭である駒州軍だ。彼らが最も行動が遅かったのは単純に蔵原への誘因が主目的であるからだ。
「いよいよ最後の段階だ。西津閣下も守原少将も派手にやっている最後は我々の番だ」
「西津閣下には足を向けて寝られないな」
決行の意気込みではなく他者への感謝をいの一番に口にした保胤に参謀たちが明るく笑った。
「南東枕にしますか」
あえて大げさに笑いながら益満は周囲の表情を観察する。いい空気になっている。
「若殿様」
「あぁ、駒州軍全部隊に所定の計画通りに行動せよ、と通達」
参謀たちが顔を引き締め導術室と行き来をする。
「先遣支隊に南方への迂回を指示」
「弾薬段列の混乱ないか」
「道路状況を確認せよ、上級部隊本部より管制を密に、工兵隊の支援を厚く」
軍司令部は膨大な業務を的確にこなしていた。この努力は益満のみならず、彼らを統率する保胤の功績が大きい。
軍政家としての保胤の企画運営・処理能力は間違いなく当世随一のものであることをしめした。
「捜索部隊より伝達、敵主力発見、本隊より距離二十里、」
「接触まで二刻半ほどか」
「天候は」「夜は雨になるそうです」
軍砲兵参謀富成中佐はは肩をすくめた。彼らの活躍は常備砲兵隊を展開させた前衛陣地に引きずり込んでからになる。敵が素直にそこまで来るほどの幸運か度し難いほどの無能を己らが晒させば、の話であるが。
「軽砲を銃兵に随伴させていますがあまり役に立たんでしょう」
富成は冷徹に前者の可能性をほぼ切り捨てている。後者を防ぐのは軍司令部の努力と運を祈るしかない。
「どのみちほとんど夜戦になる」「ですな」
雨に弱いのは銃も砲も同じだ。何しろ燧発式である。工夫はしてもどうしても影響を受けてしまう。
「敵を誘引する、それ以上の欲はかかんことです」
「先遣支隊は」「六芒郭まであと三十里ほどです。今は交代で小休憩をとっております」
先遣支隊という名前を再度使用したのは縁起が良いからである。軍隊とはそうしたものだ――もっとも栄誉と共に最も多くの血を流した第十一大隊にとってはどうかはわからないが。
「彼らを信じましょう。最精鋭です」
駒州軍にとって馬堂豊久大佐は”切り札”とでもいうべき存在である。彼の〈皇国〉政治史における評価については後世において政治的な立ち位置を示す試薬に一つになり果
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