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或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第七十九話 虎の川を越え、城より出でて
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上、領民に恨まれる、守原も水軍の将家閥の首魁である東海艦隊司令部に恨まれることは避けねばならない。
 西原の策のはずだがいつのまにか安東吉光が相手になっている。西州公・西原信英はこのように五将家体制創設期から政界を泳いで回った男であった。



十月十一日、午前第四刻
葦川 五州街道 渡河点付近

 砲艦群は事前に上流の背港村に配置されていた。作戦は単純で背湊村より新発し、一気に川を下り、五州大橋へと突入、本命を叩き込む。理由は単純に川を上るか下るかであれば下る方が楽であり、なにより日が昇らぬうちに行動するのならば虎城より海に吹き込む風を利用すれば面倒が少ないからだ。


「砲艦隊間もなく侵入する、正規砲艦隊は敵砲兵を狙え、仮設砲艦は過度に狙いを付けるな。制圧が目的だ!」

対岸の西州軍が燐燭弾を放ち、敵を照らしだす。
「撃て!」
 平射砲と臼砲が前に出ていた帝国軍の平射砲隊をたたく。足を止めるとたちまち撃沈の憂き目を見るため彼らは足を止めない。
「仮設艦、発射位置につきます」「手筈通りに、手を抜くなよ」
 煙を上げて弾の軌跡が可視化されている。
「‥‥派手だな」「着弾後はさらに派手です」
 事実であった、可燃物をまき散らすそれは一時とはいえ派手な炎をまき散らす。 
「陸さんの士気が上がる分にはいいが、どうかな」
「派手なのは結構ですが派手なだけのようですな、敵の待機壕は健在のようです」
「なるほど、だが渡河地点付近を”平らにする”ためなら相応に役立つわけだ」

「何事も組み合わせが必要という事ですな、あぁとはいえ使い道は限られそうですが」
 
「だが俺達のような連中にとってはまぁ心強いだろう」
「えぇそれは間違いなく」

 手漕ぎ船に乗った兵共が顔を引き攣らせながら祈るように川を渡る。猟兵達が騎銃を握りしめて前進し、噴龍弾の近距離砲撃で猛火に焼き砕かれる。
 その間にも西州の兵共は軍砲兵隊と水軍の支援を受けて砲火に晒されながらも橋頭堡を築き上げた。フリッツラー少将より派遣された旅団長は困惑した、確かに上泊を取られては大いに困る。当たり前であった、彼は弓野へと通ずる北葦橋の封鎖に主力を投じていた。
 確かに上泊は港町だがここを抑えても〈皇国〉軍にはさして意味がない、〈帝国〉軍にとってはむしろ願ったりかなったりだ。守るべきものが増える割に兵数が少なく伸びきった戦線を寸断してしまえばそれで済む。
 シュヴェーリン少将の勇猛さを知っている彼はそれを打ち負かしたサイツ将軍を高く評価していた。そして彼は判断した。
 ――主要街道をつかうのではない。奴は渡河に成功した後に北部へ旋回し弓野への道を遮断、側背を突こうと機動、短期決戦を誘っているのだ。成功すれば奴らの2万の軍を包囲軍の兵站拠点、弓野郊外
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