第五部〈皇国〉軍の矜持
第七十九話 虎の川を越え、城より出でて
[1/6]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
皇紀第五百六十八年 十月十日
西州軍派遣兵団司令部 西津忠信中将
しかしながら何よりも〈帝国〉本領軍に対して有効であるのは彼らの指揮官の名前であった。
西津忠信中将の名は〈皇国〉においても〈帝国〉の鎮定軍においても名将の名を冠するにふさわしいという点においては完全に合致していた。
龍口湾防衛線においては第21師団に対して終始優勢を保ち、南方防衛線を半壊に追い込むことにより、
〈皇国〉軍追撃の初動を遅らせ〈帝国〉東方辺境領姫の天才的な作戦指導を受けた第5騎兵師団の北方防衛線大突破による破滅から救い上げた。
撤退戦においては第十四混成聯隊を巧みに使いこなし、葦川への撤退において主力を傷つけずに逃げ延びることができた。
西州軍派遣兵団(事実上主力であり西州軍と呼称されている)は常備兵力のほぼ全力を内地に派遣しており、その規模はおおよそ八個旅団で構成されている。
「‥‥最後の最後で理由をつけて動かんかもしれぬと思ったが」
「閣下」「分かっている。さて、護州も前に進んだ、我らも行くべきか、無理をせぬ程度にな」
西州軍の防衛すべき街道は三つある。一つは蔵原へ至る北への背湊橋の街道、もう一つは北東の弓野へ向かう北葦川橋の街道、そして最も重要なのが東西を結ぶ五州大橋、上泊から東州灘の港町を結ぶ〈皇国〉南部の大街道五州道である。いずれも虎城から注ぐ虎背川を越えねばならない。
このうち蔵原への道は問題ではない。敵は蔵原に集結しておりこちらはほぼ放置されている。山岳沿いで森林もあり、攻めるに難く防衛側は背湊村を根拠に防衛線を容易く構築できるからだ。
「おおよそ三十里、半日の行程になります、むろん本命ではありませぬが」
補充が遅れていることから前線に投入できるのはおおよそ一万二千程度であったがそれでも十分だ。
「兵力の損耗を可能な限り抑えたいところだが、致し方あるまい。我々も借りがある」
西津中将は溜息をつくと一人異なる制服を着た佐官に軽く一礼をした。
「野原司令、君には迷惑をかけるがよろしく頼む」
中年の水軍中佐は堅苦しく答礼した。
「ご命令とあらば如何様にも」
前述の通り、西州軍が砲兵などのかさばる装備を多数放棄している――大半が六芒郭で悪さをしているので無駄になっていはいない――それでもなぜ三つの街道に分散配置された西原軍が葦川を保持できたのかというと、それは西原家の努力ではなく、水軍の功績に他ならない。
葦川は水軍の東海艦隊の根拠地の一つであり、葦川の警備(というよりも救難対応などが多いが)も水軍の担当であった。
彼が指揮するのは芦川特設河川砲艦群というたいそうな名前を与えられた部隊だ。だが実際は4隻ほどの警備艦隊と葦川の民間水運屋から重用された仮設艦だ――船主が退役少佐だったり若手の実家で
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ