第7話 千影と決闘士:後編
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も勝負に出るしかないだろうと。
互いがそう心に誓った瞬間、再びたまの姿が消えたのであった。あの時と同じように、千影を嗅覚で感知して、一気に背後へと回る算段であろうと。
「背後、取ったわ」
どうやら、その読みは正解であるようだった。そして、そうだったからこそ『うまくいった』のであった。
「……火遁の術!」
そう言って背後を取ったたまへと振り返り、千影は手で組んだ印を彼女に向けていた。
刹那、たまは燃え盛る火炎にその身を包まれたのであった。
「ふぎゃあっ!?」
そして、咄嗟に飛び退き、全身が炎に包まれるのは何とか避けたようであった。
だが、確かに彼女は今炎によるダメージを負ってしまったようだ。そして、今千影が何をしたのかという困惑が一番彼女を支配していたのであった。
「はあ、はあ。一体何を……」
息をあげながらたまはその事を千影に聞く。そしてその千影は律儀な性格であるが故に、その質問に答える。
「これは、忍術で精神エネルギーを掻き集めて炎を放つ術『火遁』よ」
「そんな事が……」
その非科学的な手法に呆気に取られつつも、たまは納得もする。現に自分も妖怪という非科学的な存在になった身であるのだから、敵がその領域にある手段を用いても文句など言えないだろう。
そして、千影はこの術を使った今の心境を淡々を語るのであった。
「できれば、この術は余り使いたくは無かったわね」
その理由を千影は説明していく。
曰く、彼女は決闘とは互いに磨き上げられた肉体と肉体のぶつかり合いだと思っているからだ。故に、このような自分の肉体を行使しない攻撃方法は邪道だという考えがあるのである。
その理論を聞いたたまは、感心しながら言葉を返すのであった。
「立派な心構えだね。こんな強力で便利な攻撃方法を持っていながら、それに頼らない戦い方をするなんてね」
「ええ、本来なら使うつもりは無かったわ。でも、嗅覚を頼りに私の居場所を割り出すなんて人外の芸当をしてみせるあなたには出し渋っていられなかったという事よ」
そう、忍において自尊心を抱え込みながら戦うというのは命取りなのである。故に忍の戦いとは、持てる自分の力と手段を以て、最善を尽くすというのが習わしなのだ。
その事を聞いて、たまは憑き物が落ちる心持ちとなる。
相手はそのようなポリシーを持って戦っていたというのに、自分は妖怪としての力を平然と使って戦ってしまっていたのだと。そこにたまは千影に自分との器の差を感じる所であった。
「それと、もう一つ」
「それは何?」
そのような心境にある為、たまは尊敬に値するこの紅月の巫女の言葉は余す事なくその耳に焼き付けようと思うのであった。そう思うと自分の頭頂部にある人ならざる耳──即ち猫耳がぴょこぴょこと可愛らしく動くのであった。
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