第一章
[2]次話
眠れない夜は
四十五歳になってだった、八条自転車総務課長渋沢修は不眠症になった。それで会社の昼休みに同期で営業第一課長の増田英光に会社の近くの食堂で一緒に食べつつ言った。
「最近寝られないんだよ」
「不眠症か」
「そうなんだよ」
こう増田に言った。
「本当にね、それでね」
「苦しいんだ」
「寝られないことが」
渋沢は難しい顔で述べた、肉付きのいい腹にもそれが出ている顔は随分疲れた感じだ。小さな目も同じだ。まだ白くもなく減ってもいないサラリーマンカットの髪の毛も同じだ。
「こんなに辛いなんて」
「思わなかったんだ」
「どうもね」
その疲れた顔で海老フライ定食を食べつつ話した。
「何とかならないかってね」
「病院に行ってるかい?」
「今度行くよ」
「まだ言っていないんだ」
「うん、予約取らないといけないから」
「ああ、予約だね」
増田は渋沢の言葉に頷いた、彼は同期と違い髪の毛は薄くなってきている。痩せて面長の顔で頬はこけている。背は二人共一七三前後だ。
「それがあったね」
「その関係でね」
「病院にはまだなんだ」
「行ってなくてね」
それでというのだ。
「詳しい話もお薬もね」
「睡眠薬かな」
「貰ってないんだよ」
「それで今はだね」
「どうにも辛くて」
それでというのだ。
「苦しいよ」
「それは大変だ」
「何でなったか」
その不眠症にとだ、渋沢は秋刀魚定食を食べる増田に言った。
「それもだよ」
「わからなくて」
「夜は寝られなくて」
それでというのだ。
「昼はうとうととなるけれど」
「それでも会社だからね」
「無理して起きて」
「それでお家に帰ってもだね」
「目が冴えてね」
夜はというのだ。
「気も変に昂って」
「寝られない日が続いて」
「困ってるよ、原因がわかれば」
「その時にだね」
「もうね」
それでというのだ。
「お医者さんに言われた通りにして」
「それでだね」
「よく寝るよ」
「そうするね」
「やっぱり人間はね」
何といってもとだ、渋沢は増田に話した。
「寝ないと駄目だよ」
「そうそう、人間寝ないとね」
まさにとだ、増田は渋沢に話した。
「どうにもならないよ」
「身体も心も休めないと」
「そうしないと」
それこそというのだ。
「おかしくなるよ、そして果てにはね」
「死ぬこともあるね」
「拷問でも寝かせないものがあった位だから」
これが随分と辛いものだという、人にどれだけ睡眠が必要かということだ。
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