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風狸
第四章

[8]前話
 末崎は築海にこう言った。
「死なぬ者はあやかしといえどおらぬ」
「そのことがわかればですか」
「よかったしな、書に書いておるだけでもな」
 実際に確かめずともというのだ。
「よい、しかもわしは風狸を延々と苦しめた」
「例え生き返っても」
「そうしているうちに済まぬと思う様にもなり」
「完全に殺してはですか」
「尚悪いと思ってな」 
 それでというのだ。
「止めることにした」
「左様ですか」
「そして薬を生きものを殺めることに使うこともな」
「石菖は田畑を荒らす虫を殺すにも使いますが」
「それは田畑を荒らす虫達を殺さねば」
 そうせねばとだ、末崎はまた築海に話した。
「民達も困る」
「必要だから使う」
「そうしたもの、自分の興味の為の殺生に薬を使うことは」
 それはというのだ。
「邪道でな」
「武士としてですか」
「やはりあるべきでない」
「そう思われたので」
「放した、間違っておるか」
「いえ、そうしたお考えがです」
 まさにとだ、築海は末崎に話した。
「正しいかと」
「そう言ってくれるか」
「何でも実際にやってみて目で見なければ確かめられませぬが」
「それでもか」
「無駄な殺生はです」
 これはというのだ。
「例えあやかしでも」
「すべきでないな」
「まして薬を毒にするなら」
 それならばというのだ。
「やはりです」
「邪道であるな」
「末崎様はそうしたことまで考えてです」
「そしてじゃな」
「拙僧も思いまする」
「わしの言うことが正しいか」
「はい」
 まさにというのだ。
「それでよいかと、では」
「戻るか」
「そうしましょう」
「さて、お主はまた高野山でじゃな」
「修行です、そしてこの度のことは」
 築海は微笑んで末崎に話した。
「拙僧は忘れませぬ」
「そうしてくれるか」
「素晴らしいものを見させてもらいましたので」
「わしは見なかったがな」
「拙僧は見させてもらいました」
「そうか、ならそれでよしとするか」
 末崎は微笑んでだ、そうしてだった。 
 二人は山を下りて末崎は己の屋敷に戻り築海は高野山に戻った。そうしてこの件のことを書き残した。
 風狸は不死身と言っていい、だがやり方によっては死ぬ。このことは事実だ。だがその風狸も着られたり叩かれれば死ぬしその時痛いし苦しむ。また己の興味だけで生きものを苦しめていいものか、そのことを考えると和歌山に残るこの話は実に考えさせられる話であろうか。そう思いここに紹介させてもらった。一人でも多くの人がこの話から考えてくれれば幸いである。


風狸   完


                    2019・11・14
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