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普通の人
第三章

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「夜だってね」
「こうしたことしなくなってか」
「お風呂だって」
 こちらもというのだ。
「別々でしょ」
「そうなのか」
「そうよ、しかもお風呂の中でも」
 美菜子は夫にさらに言った。
「絶対にそうしたことするし」
「お互い裸だからな」
「そうしたくなるのよね」
「ああ、どうしてもな」
「全く。四十代でも元気ね」
 今度はやれやれといった顔で言った。
「あなたは」
「いいことだろ」
「まあね、けれどね」
「けれど。何だ?」
「浮気はしないだけいいかしら」
「浮気?何でそんなことするんだ」
 不忍は妻の今の言葉には怪訝な顔になって言葉を返した。
「そんなことする奴はおかしいだろ」
「そう言うのね」
「だってな、浮気なんかしなくてもな」
 それこそというのだ。
「俺にはお前がいるからな」
「それでいいのね」
「そうだよ、それで充分だろ」
 だからだというのだ。
「奥さんだけでな」
「その奥さんを嫌いになる人だっているでしょ」
「最初は好きでもな」
「あと飽きたとかやっぱり若い娘の方がとか」
「そういうの俺にはないからな」
 実にあっさりとだ、不忍は妻に答えた。
「だからな」
「浮気はしないのね」
「ああ、じゃあお風呂に入るか」
「これから」
「そうしてな」
「汗を流して」
「あとな」
 不忍は美菜子にさらに言った。
「そこでもな」
「やっぱりするのね」
「ああ、しような」
「やれやれね、けれどいいわ」
 本当にやれやれという顔だったがそれでもだった。美菜子は頷いた。
 そうして身体を起こしてベッドから出て下着を着つつ夫に彼の下着を手に取って差し出しつつ言った。
「お風呂行きましょう」
「それじゃあな」
 不忍も頷きそうしてだった。
 二人で風呂場に向かいそこでも夫婦の生活を送った、そしてある日美菜子は夫とのそうした夜の生活を話すと友人は彼女に言った。
「普通じゃないわね」
「そうでしょ、うちの人って」
 美菜子は喫茶店の中でコーヒーを飲みつつ言った。
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