第29節「英雄故事」
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都内某所のファミレス『イルズベイル』。
【おいしさの虜、一度入ると抜け出せない……】をキャッチコピーにしたその店の角席で、クリスは溜息を吐いた。
「はぁ……。結局、話せずじまいか……」
食後の珈琲に口をつける。
腹を割って話そうと翼を呼び出したまではいいもの、彼女は大分苛立っており、話せずじまいで終わってしまったのだ。
「どうして翼さんの名前、呼んであげないんだい?」
「ほわぁああッ!? ジュンくんいたのかよッ!?」
隣の席から話しかけてきた声に飛び退くと、そこには純が座っていた。
「そっち行ってもいいよね?」
「あ、ああ……」
純はクリスの向かいに座ると、翼が手を付けずに置いていったお冷を呷る。
「……あたし、あいつに色々ひでぇことしたしよ……」
「翼さんは気にしてないだろうし、クリスちゃんの気が済まないんだったら、謝ればいいんじゃないのかい?」
「そりゃあ、そうなんだけどよ……」
「やっぱり、恥ずかしいのかい?」
「……」
クリスは黙り込むと、ただコクリと頷いた。
「立花さんはいいのにかい?」
「ほ、ほら、あの人は……その……あ、あたしより年上だしよ……」
「ああ、なるほど……。つまりクリスちゃんにとって、翼さんは初めての先輩って事になるのか」
「……ッ!」
その一言で、クリスの顔は一気に赤くなった。
クリスが恥ずかしがるのを分かっていて、純は敢えて言葉にする。
恥ずかしかったとしても、ここでそれを認めなければクリスが前に進めない。
素直じゃない彼女の性格を分かっているからこそ、本音を暴いて言葉にする。
そうやってクリスが一歩を踏み出すのを手助けするのも、自分の役目だと自負しているからだ。
「その気持ち、翼さんにちゃんと伝えた方がいいと思うよ」
「でもよ……」
「別に、今すぐじゃなくてもいい。でも、出来るだけ早い方がいいと思うよ。来年の3月には翼さん、リディアンを卒業して、イギリスに行っちゃうんだからさ」
「うっ……」
クリスはしばらく目を泳がせ、俯き、暫く唸ると、溜息を一つ吐いた。
「わかったよ……頑張ってみる。何も言えないまま別れるなんて、もう嫌だもんな……」
「うん」
窓の外を見つめるクリスの眼差しが揺れる。
別れも感謝も告げられぬまま、会えなくなってしまった人がいる。
そんな人達の事を思い出しているのだろう。純はそれ以上は何も言わなかった。
「……このパフェ、注文しちゃっていいかな?」
「ジュンくんもパフェとか食べるんだな」
「まあね」
ff
翌日早朝、二課仮説本部発令所。
「これは……」
響は弦十郎から渡された通信機に首を傾げる。
「スカイタワーから少し離れた地点より回
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