第八十九話 初陣での大手柄その十
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「慎む」
「そうされますか」
「わし自身への戒めとする」
「ではこれからも」
「そうする」
こう言ってだ、そしてだった。
元就は家を一つにまとめたうえでそうして幸松丸の回復を祈願したがそれでもだった。
幸松丸の容態は悪くなる一方だった、それで元網は兄に対して秘かに話した。
「殿に何かあれば」
「その時はじゃな」
「やはりです」
「わしがか」
「はい、そうなるかと」
毛利家の主になるというのだ。
「その様にです」
「わしもそれは考えておるが」
「それでもですか」
「出来る限りな」
「殿が、ですか」
「元気になって頂きたい」
こう言うのだった。
「何とかな」
「左様ですな」
「だから何とか医者にも頼って薬も出させてな」
「そして祈祷もですな」
「してもらっておる、だがな」
「それでもですか」
「人の、特に子の命はわからぬ」
元網にもこの言葉を言うのだった。
「何時どうなるかな」
「確かに。それは」
「だからな」
「どうなるかわかりませぬか」
「そう考えてします、しかしな」
ここで元就は弟である元網の顔を見て彼に言った。
「お主は長く生きよ」
「長くですか」
「そうしてな」
そのうえでとだ、元就は彼にさらに言った。
「わしの傍にいてもらいたい」
「そして、ですか」
「毛利家を支えて欲しい」
「毛利家の者として」
「頼むぞ、主従にな」
「家中がですな」
「一つになってこそじゃ」
まさにというのだ。
「家はよくなっていくからな」
「それ故に」
「お主には長く生きてな」
「家にいて」
「支えて欲しいのじゃ」
こう弟に話した。
「よいな」
「わかり申した」
元網は兄に確かな声で応えた。
「それでは」
「頼むぞ。長生きのことを言ったのはな」
「人がおらぬとですな」
「そもそも家は成り立たぬ」
「ですな。人がいてこそです」
「家がある。源氏を見よ」
毛利家のはじまりは鎌倉幕府に仕えた大江広元にある、彼の仕えた幕府の将軍家であった源氏のことを話すのだ。
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