第27節「繋ぐ手と手…戸惑うわたしのため…」
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鳴を上げる。
彼女の目には、きっと私は……恐ろしい悪鬼に映っていることだろう。
「狼狽えるなッ!」
「ひぃ……ッ!」
その一言で、他の一般客も震え上がり、肩を震わせる。
「狼狽えるなッ! 行けッ!」
私がそう言うと、一般客たちは蜘蛛の子を散らすように、慌てて走り去る。
“狼狽えるなッ!”
あのライブでも私は、震え上がる観客へと向け、同じことを言っていた。
でも……。
(あの言葉は、他の誰でもない……私に向けて叫んだ言葉だ──ッ!)
現実……それは歌を力に戦う者にとって、最悪のバケモノだ。
立ちはだかる現実という名の壁は、私の甘い理想を容赦なく押し潰した。
「マリィ……?」
ようやくマリアを見つけたツェルトは、彼女に駆け寄ろうとして……そして、見てしまった。
血に汚れたアームドギア。
壁や天井に飛び散った血痕に、倒れ伏す米兵達……。
そして、彼女の目尻に浮かぶ涙。
それが意味するところを理解した瞬間、ツェルトはその赤い目を大きく見開いた。
ツェルトに気付いたマリアは、溢れ出しそうな感情を噛み殺し、毅然とした声で言った。
「ツェルト……。私、もう迷わない……一気に駆け抜けるッ!」
ナスターシャ教授を抱え、アームドギアを天井へと掲げる。
アームドギアをドリルのように高速回転させると、自身とナスターシャ教授をマントで包み、マリアは跳躍した。
「マリィッ!」
マリアが穿った穴を昇ろうとして、ツェルトは足元に転がる米兵を見る。
「ぐッ……うぅ……」
(ッ! よかった、傷はそこまで深くない。頭打って気絶したのが殆どか……)
ツェルトはまだ意識があるその兵の腹を、思いっきり踏みつけた。
「ごはッ!?」
「寝てろ。マリィの優しさに感謝するんだな……」
兵が気絶したのを確認すると、ツェルトはアームドギアのワイヤーを伸ばし、穴を登って行った。
ff
「ありがとう、未来……」
「小日向さん、大丈夫ですか!?」
「うん、何ともないよ」
小日向さんのお陰で、何とか三人とも無事な状況だ。
だけど、非常階段は瓦礫が塞いでしまっている。
これじゃあ、僕達は逃げられない。
翔は……いつだって強くて頼りになる親友は今、この場に居ない。
彼が上がってくるための階段が塞がれてしまった以上、彼に頼るわけにもいかない。
僕が……僕が何とかしなくっちゃ……。
小日向さんと立花さん、二人は僕が守らなくちゃいけないんだ!
「ふんッ! ぐぬぬ……」
瓦礫に手をかけ、持ち上げようとする。
重たい……。ダメだ、全然持ち上がらない……。
「ふんッ……ぐぐ……うううううッ!」
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