第二章
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「だからな」
「ああ、じゃあ今から」
「サウジアラビアだったな」
実篤は息子の転勤先の国を問うた。
「そうだったな」
「あの国だよ」
「遠いな」
「飛行機でも結構な時間がかかって」
それでというのだ。
「しかも」
「それだけじゃないな」
「宗教も文化も違うからな」
「大変だな」
「ああ、けれど家族がいるから」
コロはいないがという言葉はあえて言わなかった、そうしてだった。
実篤から見て息子夫婦は異郷の地に向かった、実篤はその彼等を見送ってから妻と一緒にコロに言った。コロは自分のこれまでの家族が去ったバス停でバスが去った方を今も見ている。
「コロ、これから宜しくな」
「ワン?」
「これからはわし等がお前の家族だよ」
「ワン」
「ちゃんと散歩に連れて行ってご飯をあげるからな」
彼に優しい声で語った。
「安心しろよ」
「ちゃんとお家もあるから」
麻由美も言った。
「だから安心してね」
「そういうことでな」
「ワン」
コロは彼等に顔を向けてもわかっていない感じだった、しかし。
コロと老夫婦の生活ははじまった、夫婦で彼にご飯をあげて散歩に連れて行く。二人は誠意を以てコロと暮らした。
コロにもそれは伝わり二人に懐いた、だが。
朝夕の散歩の時に常にだった。
コロは前の自分の家族と別れたバス停に行った、そこでバスが行った方やバス自体をいつも見ていた。そのコロを見て。
実篤は家で妻にこう言った。
「やっぱりコロはな」
「ええ、雄吾達がね」
「忘れられないんだな」
「そうね」
「仕方ないけれどな」
コロが息子夫婦と別れたことはというのだ。
「そのことは」
「ええ、あの子の転勤だから」
「サウジアラビアへの」
「だからな」
それでというのだ。
「もうね」
「どうしようもないけれどな」
「あの子達も好きで別れたんじゃないし」
「そうだけれどな」
「それでも忘れられないのね」
「犬もそうなんだな」
実篤はここで考える顔と声で述べた。
「人もそうだしな」
「ええ、人も別れた人のことはね」
「中々忘れられないな」
「自分を大事にしてくれた人に対しては」
尚更というのだ。
「そうね」
「そうだな、どうしたものか」
「仕方ないことだから」
妻は夫にこう答えた。
「コロが雄吾達と別れたこともまだあの子達のことを忘れられないことも」
「仕方ないか」
「もう私達はそのことを受け入れて」
そうしてというのだ。
「そのうえでね」
「コロと一緒にいていくか」
「そうしましょう、いい子だし私達にも懐いてくれてるし」
穏やかで愛嬌がある犬だ、二人を見るといつも尻尾を振ってくれる。そして明るい物腰で本当の家族になっている。
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