第一章
[2]次話
預けられた先で
その男は無念の顔で妻と娘に話した、名前は辻井雄吾という。髪の毛に白いものが混じっていて顔にも皺が目立つ初老の男だ。
「お父さんが海外に転勤になったからな」
「コロは、なのね」
「連れて行けないのね」
「ああ、何とかしたかったがな」
それがというのだ。
「無理だった」
「サウジアラビアね」
「ああ、あの国までコロを連れて行くことはな」
どうしてもというのだ。
「難しくてな」
「それでなのね」
「コロはな」
妻に項垂れた顔で話した。妻は黒髪をパーマにした目尻に皺のある中年女性だ。顔立ちは穏やかである。
「連れて行けないからな」
「それでなのね」
「お祖父ちゃんにな」
彼から見て父にあたるこの人物にというのだ。
「預けるな」
「それでなの?」
娘は父に問うた、黒髪をツインテールにしている小柄な娘だ。
「コロとは」
「ああ、お別れだ」
「そうなの」
「済まない」
父は妻と娘に頭を下げた。
「何なら父さんだけで行くか」
「それはよくないでしょ」
妻は謝罪する夫にこう返した。
「あなた一人で他の国に行くのは」
「単身赴任はよくあるだろ」
「よくあっても」
それでもというのだ。
「サウジアラビアでしょ」
「ああ、あの国だ」
「日本と全く違う国じゃない」
父が転勤が決まったこの国はというのだ。
「だからね」
「家族が一緒じゃないとか」
「あなたも大変だし。それにコロを捨てる訳じゃないでしょ」
「お父さんに預けるから」
だからだとだ、夫は妻に答えた。
「そんなことはしないからな」
「それじゃあね」
「まだいいか」
「ええ、だから」
それでというのだ。
「コロのことは残念でコロも悲しいでしょうけれど」
「仕方ないか」
「そう、だからね」
「コロは預けるか」
「そうしましょう」
こう言ってだった。
それでだ、彼等は。
コロ、耳が立った茶色の毛で腹と顔が白い柴犬とコーギーの雑種の雄犬を雄吾の父である実篤に預けた。その犬を見てだった。
実篤、もう定年していて悠々自適の生活を送っている灰色の髪を真ん中で分けた皺だらけの顔の老人はコロを見て息子の家族に問うた。
「この子をか」
「頼むよ」
「わかった」
我が子に確かな声で答えた。
「それじゃあな」
「可愛がってくれよ」
「母さんもいるしな」
実篤は妻の麻由美の名前も出した、垂れ目で髪の毛はもうすっかり白くなっている小柄な老婆である。
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