第25節「混沌のラメンタービレ」
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「医療班だって無能ではない。現在、復帰した了子くんと共に、対策を進めている最中だ」
「了子さん、戻ってるんですか!?」
「ああ。一昨日から、ラボに籠りっきりで頑張ってくれている。その内顔を見せに来るだろう」
響と顔を見合わせて喜ぶ。
了子さんが戻って来てくれているならば、きっと何かいい方法が見つかるはずだ。
「治療法なんて、すぐに見つかる。そのほんの僅かな時間、ゆっくりしてもバチなどあたるものか」
そう言って叔父さんは、俺と響の頭にポンと手を置いた。
「だから今は休め」
「師匠……わかり、ました……」
「叔父さん……ありがとうございます」
叔父さんの手が離れた後、俺は純と雪音の方を見る。
「純、雪音、俺達の代わりを頼む」
「ああ……任せとけ」
「翔と立花さんの二人分、僕らで頑張るよ」
そう言うと純は、俺に拳を突き出す。
俺はそれに応じ、自分の拳を付き合わせた。
「涙など、剣には無用……。なのに、何故溢れて止まらぬ……ッ」
医務室前の廊下で、翼は壁を一発殴りながら、そう呟いた。
両目には涙があふれ、その頬を伝っている。
何もできない自分への悔しさが。二人を失う事への恐怖が、彼女の中で渦を巻く。
(今の私は……仲間を、弟を守る剣に能わずという事か……ッ!?)
「翼さん」
聞きなれた声に、反射的に涙を拭う。
緒川が呼びに来たという事は、もう仕事の時間だという事だ。
そして現在、緒川は調査部の任務が入っている。
今日は翼一人での仕事になるだろう。
それに……今の自分の顔は、誰にも見せられない。
緒川に向けられる顔ではないのだ。
そう判断して、翼は緒川の顔も見ずに返した。
「分かっています。今日は取材が幾つか入っていましたね」
「翼さん……」
「一人でも行けます。心配しないでください」
突き放すようにそう言って、翼はその場を歩き去って行く。
(こんな時、何と声をかけたらいいのか……)
離れていく翼の背中を見つめ、緒川は心の中でそう呟いた。
(ここ数日、翼さんは自分を追い込んでいる。何とかしてあげたいのに……何と言ってあげるべきなのか、分からない……)
すぐ傍で支えると誓った。この身に代えても守ると誓った。
その少女が苦しんでいるときに、自分は何も言ってやれない。
彼女が泣いていたのは知っている。しかし、その涙を決して他人には見せようとしないことも、彼はよく知っている。
彼女の弟なら、それでも突貫してその涙を暴き、拭おうとするのだろう。
だが、緒川にはまだ、そこまでの勇気が足りない。
彼女の涙を無理矢理暴く事で、その誇りを傷つけ、拒絶されてしまうのが怖いのだ
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