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レンズ越しのセイレーン
Mission
Mission2 アステュダメイア
(2) バー「プリボーイ」~ドヴォールの路地
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たが――

「カナンの地は、古い精霊伝承に出てくる伝説の場所でね――」
「魂の循環を司る無の精霊オリジンと、その番人の時空の精霊クロノスがいる場所、だろ」

 ジュードは琥珀色の目をぱちくりさせた。

「詳しいんだね。エレンピオスはあまり精霊について知られてないと思ったんだけど…」
「俺もついさっき知ったばっかり。どうやら俺、知らない間に関係者だったみたいだ」

 便箋をひらひらさせて苦笑する。
 骸殻を得た今、ルドガーもユリウスやその他の一族の者と同じラインに立っている。

「人類の存続が懸かってるくせに、『カナンの地に一番に辿り着いた者には何でも願いを一つ叶える権利を』。そんなエサぶら下げられたせいで、身内で競って一番乗りを争ってきたんだとさ。ユリウスが隠すわけだ」
「ルドガー……君は一体…」

 何者なの、とでも問いたげなジュードに、苦笑しか返せない。

(何者か、なんて、俺が一番知りたい)

 自分がクルスニク一族の一員で、骸殻能力者だとは分かった。だがそれで何をどうしろというのだ。昨日まで平々凡々な一般市民だったルドガーにも世界の命運を背負えとでも?

(無理に決まってる。だから兄さんだって俺に内緒にしてたんだ)

「ルドガー、カナンの地の行き方知ってるの!?」

 エルがルドガーの手を両手で掴んだ。必死さ全開のエルに、ルドガーも返答に詰まる。
 ユリウスの手紙には、カナンの地に行くには大きな代償を払わねばならないと書いてあった。必要な品を集める上での命の危険、骸殻を使うリスク、世界を壊す責任。とてもではないが、会ったばかりの少女のために今すぐ「やる」と言えるものではない。

「はいはい、オトナを困らせないの、仔猫ちゃん」
「エル、ネコじゃないー!」
「では仔猫ちゃん改め、エル。ルドガーにはルドガーのキモチがある。誰も強制はできない」

 ユティの正論にエルは泣きそうになる。

「じゃ、じゃあその手紙ちょーだい! エルひとりで行く!」
「ムチャクチャ言うな! 子どものくせに…」
「パパと約束したんだもん! つらくてもこわくてもがんばって行くって!」

 獅子は千尋の谷から我が子を云々どころではない。エルのようなか弱い幼子相手にとんでもない父親だ。会えるなら一発殴らねばなるまいて。

「とにかくトリグラフに戻らない? 行く行かないは今すぐ決めなくてもいいでしょ。家に帰ればまだマシな案も出るかもだし」
「そ、そうだね。ひょっとしたらユリウスさんとも連絡つくかもしれないよ」

 ジュードの案にとりあえずルドガーも肯いた。
 ルドガーは所在無さげなエルの前でしゃがんだ。期待と不安に半々に揺れる翠。幼い少女がこの程度の動揺ですんでいる辺りは賞賛して然るべきだ。


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