第三章
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「最後の最後まで幸せでいたいんだ」
「だからだね」
「そうだ、ベルを幸せだって感じさせたままな」
「見送るんだね」
「そうしてやろう、だからな」
「最後の最後までだね」
「それが何時かはわからないけれどな」
遠くない、このことは確かでもというのだ。
「そうしてやろうな」
「それじゃあね」
「そのことわかってくれるな」
「だったらね」
それならとだ、翔太は父に言葉を返した。その言葉は約束する様なものだった、その言葉で言うのだった。
「僕笑ってね」
「エドワードを送ってくれるか」
「一緒にいる時も」
その時もというのだ。
「笑っているよ」
「そうしてくれるか」
「最後の最後までね」
「頼むな、そのことは」
「家族三人で最後までそうしてくれていたら」
それならとだ、母も言ってきた。
「エドワードも幸せよ」
「そうだよね」
「だってエドワードいつも私達が笑顔でいてたら尻尾を横に振ってくれるから」
犬にとって喜びの意思表示だ、犬の感情は顔だけでなく尻尾にも出るのだ。
「だからね」
「それじゃあだね」
「一緒にね」
これからもというのだ。
「いてあげてね」
「笑顔でだね」
「最後の最後までいましょう」
我が子の言葉を受けて言った、こうしてだった。
浜崎家はエドワードと共に暮らし続けた、その間三人共彼に笑顔を向け続けた。翔太もそれは同じで。
朝の散歩、登校前のそれに行く時に彼に笑顔を向けて言った。
「散歩行こう」
「ワン」
エドワードはその彼に尻尾をぱたぱたとさせて明るい鳴き声で応えた、そうしてだった。
翔太と共に散歩に出た、翔太はそのエドワードにずっと笑顔を向けていた。それは変わらないものと意識しながら。
そうして一年過ぎて二年過ぎても同じだった、エドワードは衰えが目立つがまだ健在だ。翔太は志望校に合格したことをエドワードに告げた。
「受かったよ、高校に」
「ワン!」
エドワードは明るい声で応えた、見ればその顔は笑顔に見えた。尻尾も振っていたがその顔にもう出ていた。翔太はその時のエドワードの顔を一生忘れなかった。
盲導犬の幸せ 完
2020・5・24
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