今日は私が女給さん(風鳴翼誕生祭2020)
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く。
すると、翼はポロポロと涙を流し始めた。
「翼さん、どこか痛むんですか!?」
「い、いえ……違います……。ただ……自分が、情けなくて……」
袖で涙を拭う翼を見つめながら、緒川は静かに言った。
「情けなくなんかないですよ。翼さんは、翼さんなりに頑張ったじゃないですか」
「でも……わたし、全然上手く出来てなくて……」
「そんなことありません」
「掃除中に小指ぶつけちゃうし……」
「誰にでもあることです」
「砂糖と塩、間違えちゃったし……」
「時々あることです。それに、とても美味しかったですよ」
「洗濯機の中身全部ぶちまけちゃったのは?」
「あれは…………」
流石に口籠る緒川。
翼は顔を両手で覆いながら続けた。
「わたし、慎次さんに何も返せてません……。今日は慎次さんに休んでもらうつもりだったのに、結局手伝ってもらったり、ご迷惑をおかけしたり……」
「翼さん……僕は迷惑だなんて、思っていませんよ?」
「でも、わたしは……」
「だったら、一緒にやりませんか?」
「…………え?」
思わぬ言葉に、翼は手を下ろす。
「二人でやれば、僕の負担の半分を、翼さんに預けることができます。それに、一人でやるより早く、家事を終えることが出来るはずです」
「でも……わたしでは、慎次さんの脚を引っ張ってしまうのでは……?」
「教えてあげますから、一緒に頑張りましょう。ね?」
「慎次さんと……一緒に……」
見上げる緒川の顔は、相変わらず頼もしく、優しい笑みを湛えている。
「手始めに食器洗いから、お教えしますよ?」
「慎次さん……」
今のままでもいいと。一緒に改善していこうと。
愛する人がそう言ってくれたのが、翼には何より嬉しかった。
そして、緒川と二人で台所に立つ自分の後姿を妄想し……ちょっとだけ、頬を赤らめた。
「その前に、落としてしまったコップを片付けましょう。このままだと、足を切ってしまいます」
「そ、そうですね……。塵取りを持ってきます!」
緒川の腕から慌てて離れると、翼は掃除用具置き場へと向かって行った。
「翼さんも、以前に比べて柔らかくなりましたね……」
と、その時、緒川のスマホが着信の『逆光のフリューゲル』を鳴らした。
「もしもし」
『緒川さん、パーティーの準備出来てますよ』
声の主は、もちろん翔だ。
緒川は、翼に聞こえないように注意しながら答えた。
「翔くん……翼さん、今日も可愛いですね」
すると、翔は一瞬沈黙し、クスっと笑って答えた。
『当たり前でしょう。だって姉さんは──』
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