第三章
[8]前話
するとすぐに加藤の家の近所の男の子が名乗り出た、だが。
彼は加藤に会うと暗い顔で話した。
「前飼ってた犬がこの前死んでお父さんもお母さんも」
「二度と悲しい思いはしたくないってか」
「言ってるんだ、犬小屋もお皿もそのままで」
「そうか、けれどお前は飼いたいんだな」
「うん、だからおじさんにも言うんだ」
「お兄さんな、それならわかった」
そうした時は新しい犬を迎えればいい、かえってその方が悲しみも前の犬も前向きに忘れられる、そう聞いているからだ。
加藤は自分から男の子の両親を説得しにかかった、その説得はかなり熱いもので。
男の子の両親も頷いた、こうしてシロの新しい飼い主は見付かった。加藤はシロを男の子の家に引き渡す時に彼に言った。
「幸せになるからな」
「ワンワン」
「また会ったら宜しくな」
「ワン」
シロはどちらの言葉にも尻尾を振って応えた、こうしてだった。
男の子の家に引き取られ時々彼と男の子の散歩の時に出会うとじゃれる様になった、加藤はこれでよかったと心から思った。
そして職場では。
スランプも治り調子よく仕事をしていた、ここで仲間が彼に聞いてきた。
「ワンちゃんは幸せなのね」
「ああ、有り難いことにな」
「じゃあ不良達は?」
「何でも俺が通報したらな」
彼は実際に通報したのだ。
「警察がすぐに動いてな」
「流石富士高校、マークされてるだけあるわね」
「動物虐待はそれだけじゃなくてな」
「他にもしてたのね」
「近所の犬や猫色々いじめてて」
それにというのだ。
「万引きやカツアゲとかもしてるのがばれて」
「晴れて退学ね」
「それで少年院送りだよ」
「そうなったのね」
「これで奴等の一生も終わりだよ」
「犯罪者になったから」
「ああ、よかったよ」
このこともというのだ。
「本当にな」
「自業自得でござるな」
その話を聞いた金子も言ってきた。
「まことに」
「だよな、悪事には報いがあるんだよ」
「その通りでござる」
「それでいいことをしたら幸せが来る」
「そうなるでござるな」
「俺のスランプも終わったしな、また調子よく頑張るか」
加藤は笑顔であらためて言った。
「仕事を」
「後は彼女だけね」
「そっちは何時でござろうか」
「そのうち出来たらいいな」
こちらのことにはこう言った、そうしてだった。
加藤はコーヒーを飲んでからペンを手にした、その飲む量は元に戻っていた。そして叫ぶこともなかった。
飼い主募集 完
2020・5・24
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