第三章
[8]前話
「それでなんだ」
「それで、です」
また吉能が話した。
「私が父と母の代理としてもです」
「来られたんですか」
「はい」
そうだというのだ。
「この度は。それでお礼は」
「そのことはですね」
「はい」
ここでネクタイを出して言ってきた、しっかりと包装されたそれを。
「こちらで」
「そこまでは」
「いえ、お礼はです」
それはと言うのだった。
「忘れはいけないので」
「だからですか」
「はい」
笑顔での返事だった。
「受け取って頂けたら」
「それでは」
レスキュー隊員だがネクタイを着ける時もある、それでだ。
俊はお礼を断り続けることも失礼と思いネクタイを受取った、そうしてその後で三人で話した。そしてだった。
吉能とも携帯の番号やメールアドレスを交換してだった、時々連絡をする様になりそこから交際がはじまり。
吉能と賢章の家にも呼ばれる様になり両親と話す様になった、もう結婚も前向きに考えられるまでの関係になっていた。
その中でポチとも顔を見合わせるが。
「ワンワン」
「おいおいポチ、いきなりか」
俊は自分のところに尻尾をぱたぱたとさせて駆け寄ってくるポチを抱き締めて笑顔で言った。
「俺が随分好きなんだな」
「それは当然よ」
吉能が賢章に笑顔で言ってきた。
「だって自分を助けてくれた人だから」
「それでか」
「嫌いな筈ないわ」
こう彼に言った。
「本当にね」
「そうなんだな」
「だからね」
「俺を見たらいつもこうなんだな」
「ええ、けれどね」
「けれど?」
「奇遇よね。橋の手すりがたまたま古くなって急に壊れて」
それでというのだ。
「ポチが溺れてそこに偶然通った貴方が助けて」
「そのことか」
「それで私達が会って交際する様になって」
「言われてみたら奇遇だな」
俊も言われて頷いた。
「橋のことからはじまってな」
「そうよね、ポチが溺れたことは不幸でも」
それでもとだ、吉能はこうも言った。
「助かったし。それが縁で私達が会ったから」
「奇遇って言っていいか」
「災難が全体的に見て幸せになってるわね」
「そうだな、それも世の中かも知れないな」
「そうよね」
「ワンワン」
吉能だけでなくポチも言ってきた、恋人も犬も彼を見ていた。俊はその中で自然と笑顔になっていた。確かな幸せを感じて。
レスキュー隊員の出会い 完
2020・5・24
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