怪盗乱麻のサイドチェンジ
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気づいていないだけで、痛かったのも心細かったのも子供の頃の彼女自身に言っている。
……少なくとも、わたしは痛くもないし心細くなんてなかった。
あなたたちに騙されて自分の気持ちを踏みにじられたときの方が、よっぽど苦しかった。
それに、このリゾートを巡る物語で一番苦しかったのはわたしじゃない。
『二人きりで話をしようか。姉さん。オレはこのときを十年待ったよ』
「ええ。ですが怪盗を解放した後、いつどこで話をするとは言っていませんね?」
『……は?』
部屋に吹き抜ける一陣の風。それがポケモンの力でなくただ人間が走る速度だとリゾートに来る前のわたしならとても信じられなかっただろう。
一度は部屋から出て行ったチュニンが、目にもとまらぬ速さで一人になったサフィールをたたき伏せんと猛烈に迫ってくる。
「捕まえましたよ、愚弟! あなたの我が儘もここまでです!!」
『がっ……!!』
一瞬で地面にたたき付け、腕をねじり上げて関節を極める。背中を踏みつけ、一歩も動かすまいと全力を込めているのが伝わる。
「いずれ、あなたが大人になってわたくしたちと関係なく自分の人生を生き、その上でわたしと話したくなったら。そのときは二人きりで話すと約束しましょう。今は残念ですが、さようなら」
我が儘なのはどっちなのだろう。誰も傷つけないために相手を騙してでも安全に生きて欲しいと願う大人と、自分が傷ついて、周りに迷惑がかかってでも自分の意思を貫きたいと願う子供と。
自分が絶対正しい、とは今のわたしには言えない。スズもクルルクも、周りを優先して動いていたから、自分だけが我が儘な気もする。
『……ねえ、ラティアス。今も見てくれてるよね?』
わたしに心を盗まれたと言ってくれた護神。キュービの事は大切だけど今の彼女は間違っていると。あなたならキュービの過ちを正せるかもしれないと。
ひゅううん、と澄んだ鳴き声が聞こえた。その声は、わたしを責めてなんかいない。
「……ありがとう、ラディ。君という怪盗が来てくれなかったら、オレの願いは叶わなかった」
「こちらこそ。サフィールがわたしを捕まえようとしてくれなかったら、わたしはキュービの八百長に従うしかなかったもの」
怪盗乱麻に手錠は掛かり、捕まったことも知れ渡った。今はモンスターボールもなく女城主の傍らに。
もはやキュービの用意した華々しく宝を盗み出すシナリオは崩壊した。
それでいい。それでもいい。スズもクルルクも、わたしの決断を赦してくれた。サフィールも納得してくれた。
「悪いけど、そんな悪徳企業みたいな言い分はあんたには似合わないんだよ。オレは二人きりで話をすると決めた。誰だって例外じゃない! サーナイト!」
「その声は……まさか!?」
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