暁 〜小説投稿サイト〜
遊戯王BV〜摩天楼の四方山話〜
ターン27 「呪われし」懐古の悲願
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僧兵は得物の薙刀を手にしていない方の左拳を真上……つまり、頭上のマンホールの蓋へと叩きこんだ。金属同士のぶつかる派手な音とともにその拳はマンホールをその錠ごと力業で跳ね飛ばし、外の光がぽっかりと開いた穴から差し込んでくる。

「よし、ご苦労」

 カードをデュエルディスクから引き上げる。ただそれだけで、先ほどまで空間を占めていた僧兵の姿も煙のように薄れてその質量ごと消えていった。あとは梯子を上り、久方ぶりの地上の空気を吸うだけだ。
 まず首から上だけをこっそりと出して、周りの様子を確認する。予想通りあたりに人影はなく、今の騒ぎを聞きつけた人間もいない。それを確認してから一息に外に出ると、頭上の眩しさにやや怯む。
 軽く服の埃を払った鼓が最初に足を向けたのは、マンション1階の管理人室だった。歩きながら軽く咳払いして、随分久しぶりのオンモードに気持ちを切り替える。白いドアをドンドンと強めにノックし、おそるおそる顔を出した気弱そうな禿げ頭の老人にデュエルポリスの証明書を突きつけながら有無をいう暇を作らせずに畳みかける。

「失礼します、私はこの通り、デュエルポリスの鼓と申します。単刀直入に申し上げますと、この物件にはテロリストが潜んでいるとの情報が確かな筋より手に入りました。よって日本名で言うところの『デュエルモンスターズを用いた犯罪の処罰及び規制等に関する法律』第三章第十一条二節に基づき、当該物件の管理人である貴方には我々に協力していただきます」

 淡々と、一切の反論を許さない冷たい言葉が紡がれる。視線を逸らして逃げようにも、相手の目を正面から見据えてまばたきひとつしない言葉以上に冷たい瞳がそれを許さない。
 実はこのとき鼓、その鉄面皮の下ではしれっと犯罪スレスレ、グレー中のグレーに手を染めていた。確かに当該法律自体はちゃんと存在し、言っていること自体もおおむね間違ってはいない。問題は最後の一言で、実はこの法律は管理人だからといってデュエルポリスへの協力義務なんてものを定めているわけではない。あくまで協力要請ができるというだけの話を、さりげなく自分に有利に聞こえるように改修したのだ。しかも闇雲に話を盛ったのではなく、相手を一目見たうえで法知識は薄いと判断してのことだから余計にたちが悪い。

「後はこちらで終わらせます。市民の皆様に迷惑はおかけしませんので、マスターキーの提出をお願いします」

 丁寧な言葉は、拒否権はないと言外に語る。駄目押しに一歩詰め寄ると哀れな管理人は酸欠になった金魚のごとく口をパクパクと開け、汗をだらだらと流しながら青い顔で鍵束を取り出した。持ち主の手に合わせて小刻みに震えるそれを受け取ったところで、今度は一歩下がって多少なりともプレッシャーから解放してやる。

「ご協力、感謝します。追って連絡を行います
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