後編
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ここが火事になるというのなら、ともかく早く外に出なくてはならない。しかし、それは美紀も一緒にだ。真田は美紀の手を強引に引いて、薄暗い廊下を玄関へと足早に向かった。
他の子供たちにも知らせようとしたが、建物には先ほどからまるで人気がない。この孤児院は無人のようだ。いるのは真田と美紀の二人だけらしい。
(この茶番に、他の人間は必要ないってことか。)
そんなことにも何者かの悪意を強く感じる。
(しかし、こんなことを仕組むやつから俺は美紀を守れるだろうか。たかだか小学4年生の非力な俺が・・・。)
また何もできずに美紀を失ってしまうことが、ただただ恐ろしかった。
(自分がもっと強ければ・・・。)
力が欲しかった。美紀を守れる特別な力があれば・・・。
『アキ!』
玄関の手前まで来たところで、ふいに荒垣の呼ぶ声が聞こえた。
「シンジか?どこにいる。」
真田は周りを見回して声を上げた。しかし、やはり誰もいない。建物は相変わらず静まり返っている。
気のせいかと思って、改めて進もうとすると、
「ああ、呼んでるね。シンちゃん。」と、美紀が耳を澄ますようなしぐさをした。
「私のことも呼んでる・・・。自分もここに来るんだって・・・。しょうがないなあ。」
少し困ったような表情を浮かべて、美紀はくすくすと笑った。
真田は、わけが分からずに美紀を見守った。
「でも、やっぱりお兄ちゃんはシンちゃんと一緒にいないとね。」
美紀がそう言った瞬間、入り口のドアを突き破って突然に荒垣が現われた。
「なんだここは。」
面食らったように辺りを見回して、荒垣が声を洩らす。
そして真田と美紀に目を止めて硬直した。
一方、その荒垣の姿に、真田も目を見張りぽかんと口を開けた。。
「アキ、お前なんだその恰好は。」
「えっ・・・」
小学4年生の真田は逆に荒垣の姿に驚いていた。
赤いコートに帽子、手にバス停を抱えた荒垣の力強い姿。そして真田は我に返った。
(そうだ。俺は小学4年生じゃない。シンジと同じ高校三年生。ボクシングチャンピオンで、特別課外活動部のペルソナ使いだ。)
その途端、荒垣の目の前で、真田はあっという間に高校生の姿に戻った。赤いベストにグローブをはめたいつもの姿に・・・。
「おおっ!」荒垣が驚きの声を上げる。
真田は自分の体を見回した。急速に頭がはっきりしてくる。
「ああ、戻っちゃった。・・・まあ、シンちゃんが来たら、そうなるよね。」
美紀の声は、不思議と楽しそうだった。
「お前、・・・美紀。」
事態を飲み込めずに、荒垣が声を洩らす。
「美紀、結局お前はなんなんだ。」
真田は振り返ると、美紀に改めて問いかけた。
「言ったでしょ。私はお兄ちゃんのイメージ。お兄ちゃんがさっきまで自分を小学4年生だって思いこんで、子供の姿になってたのと
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