閑話2 エル・ファシルにて その2
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の出世はそうそう見込めないし、望んでもいない。うまくすれば左遷され「戦史編纂室の編集員」にしてもらえるかもしれない。そう思うと自然とヤンは何となくだが元気が出てきた。しかし言われた側の衝撃は小さなものではなかった。カップをソーサーに戻し、パンプディングを二口ばかり口に運ぶと、グリーンヒルはヤンの顔をまじまじと見つめてから問うた。
「回避できる、ということは作戦によっては駐留艦隊も生還できた、ということかね?」
「ええ、まぁ」
「後学のためにぜひ教えてもらいたい。どういった作戦で駐留艦隊と民間船団双方を脱出させることができるのかね?」
「……すみません。これは小官の言い方が間違っておりました。駐留艦隊自体は犠牲になりますが、要員の生還は可能だ、という意味です」
「……駐留艦隊自体が犠牲となる、のか?」
「生還した駐留艦隊の要員の調書も取れているとは思いますが、リンチ司令官閣下の作戦は戦闘艦隊の脱出作戦としてはさほど間違っているとは思えませんでした」
それゆえに帝国軍の指揮官に行動を推測され、万全の迎撃態勢を整えることができた。帝国軍の最終目的はエル・ファシルの占領であろうが、その前に自軍の一〇分の一とはいえ駐留艦隊が出撃あるいは逃走するのを見逃すとは思えない。であれば、航続距離の長い戦艦と巡航艦の一〇隻ばかりを切り札として船団に同航させ、残り全てに幾つかの戦闘プログラムを事前に組んで無人で帝国軍に送り出せばよい。幸いというか、あらんかぎり掻き集めた故に船腹には余裕があった。三〇〇万人が三一一万人になっても問題はなかった。
「幕僚の一人として、リンチ司令官閣下にこの作戦を提案するべきでした。いくら民間人の脱出計画に傾注していたとはいえ、意見を出せなかったことは、自分が幕僚として問題であったと思います」
「そうか……いや貴官の言う通りかもしれないな……」
そういうとグリーンヒルはしばらく目を瞑った。
「実を言うと司令官のリンチ少将は私の知人でね……確かに細かいところに目が利くようなタイプではないが、勇敢で活力に富んだ指揮を執ることができる指揮官だったはずだ。それがなんで……」
「……」
「つまらない愚痴を言ったな……いや、ヤン少佐。今日は家族の我儘に付き合っていただいてありがとう」
手を伸ばすグリーンヒルの手を取り、ヤンは無言で握手した。家族としての感謝なのか、それとも別の意味が込められているのか。ヤンは正直判断しかねないまま、グリーンヒル夫人やフレデリカの見送りを受けて、グリーンヒル邸を後にした。
グリーンヒルが気を廻して手配してくれた無人タクシーの中で、ヤンは思った。軍の不名誉を覆い隠すために作られた英雄となり、どこに行くにもサイン攻め。品性の欠片もないイエロージャーナリズムと、聞いたこともない親族の出
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