閑話2 エル・ファシルにて その2
[6/9]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
脱出船団がエル・ファシル星系を出発して五日と一一時間かけてエルゴン星域の境界星系であるナトゥラ星系に進入を果たした時、それを出迎えたのはU字陣を形成し砲撃態勢を整えたエルゴン星域の星間巡視隊の一つだった。帝国軍の侵攻を警戒し、外縁跳躍宙点の監視をしていた星間巡視隊が、未確認の八〇〇近い重力ひずみを確認すればその反応も無理はない。だが跳躍してきた船がすべて民間船であったことには戸惑った。あわただしく通信が交わされ、ヤンと巡視隊司令の間で情報交換がなされ、その双方に衝撃を与えた。
エルゴン星域には二日前、エル・ファシル星域駐留艦隊の一部が生還を果たしていた。数は三〇隻に満たず、そのいずれもが大なり小なり損傷を負っていた。エル・ファシル星系内で捕捉された駐留艦隊三五〇隻は、ほぼ全軍で待ち構えていた帝国軍の半包囲下に置かれ、分散離脱を試みほとんどで失敗した。
帝国軍の指揮官はリンチが脱出を企図していること、それが分散離脱であることを完全に把握しており、艦隊を一〇〇〇隻の主力部隊と三〇〇隻程度の小集団に編成し、分散離脱を仕掛けたタイミングで各個撃破と広範追撃戦を展開した。兵力の絶対数において一〇倍であるので、分散離脱は自然と逃散と変化し、各艦はそれぞれに生存の道を探らざるを得なくなった。
そうやって生還した艦の乗組員から民間脱出船団が惑星エル・ファシルからの脱出に「失敗」したこと、民間人の脱出は絶望的であることを告げられ、それから二日間軍艦以外の船がエル・ファシル星域から来なかったことから事実であると判断していた。脱出船団を指揮していたのが二一歳のうだつの上がらない中尉であることも事実を補強する理由として十分だった。
だが実際は脱出船団に一隻の脱落もなく、健康を悪くしていた高齢者数名が関連死した以外、死者を出すことなく無事に民間人の脱出は成功した。これから想定されるのは「保護すべき民間人を見捨てて軍隊が後方へ逃走した」という現実だった。報告は星間巡視隊からエルゴン星域軍管区司令部、そして統合作戦本部へともたらされ、軍首脳部はその不名誉極まる汚名を雪ぐにはどうすべきか頭を悩ませ、結果としてヤンを英雄として祭り上げる選択をしたのだった。
故にダゴン星域で勝利した第三艦隊を差し置いて、脱出船団は航路を最優先で進みハイネセンに到着。軍が総力を挙げて建設したほとんど街と言っていい仮設避難施設に民間人を上げ善据え膳で収容し、ヤンを「名誉ある同盟軍人」として持ち上げた。変則的な二階級特進、複数の名誉勲章、記者会見にインタビュー、政府や財界有力者との豪華なパーティーなど。名誉欲と虚栄心にキリの無い人間であれば天国のような、そんなものに無縁に近いヤンにとっては地獄のような二週間が続き……ヤンはとある上官の家へ夕食に招かれた。
「
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ