閑話2 エル・ファシルにて その2
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重力機能を有する全ての船が同行する。
「本当にレーダー透過装置を作動させなくてよいのですか?」
席をヤンに譲ったシースター・サファイアの船長が、頭の後ろで手を組みぼんやりとした表情で無人となった宇宙管制センターから送られてくる情報を眺めているヤンの傍で囁いた。サンタクルス・ライン社の辺境航路用としては最大の貨客船であるシースター・サファイアには、海賊対処用としての軽武装とレーダー透過装置が標準装備されている。
それゆえに万が一交戦となった場合ヤンはこの船を、他の船を逃がす時間を稼ぐ盾として使うつもりであった。その為に旗艦にしたわけだが、船長としてはせっかくの装備を使わずにいるのが不満のようだった。
「大丈夫ですよ。敵の目は司令官閣下の部隊に集中しています。レーダー透過装置を作動させてしまうと、この近くに潜んでいる帝国軍の哨戒艦に逆探知される可能性が極めて高いです」
「しかしこの船は私が言うのもなんですがかなり大きく、二万三〇〇〇人もの乗客が乗船されています。発見されてしまっては……」
他の船にはそういった装備はない。発見された時に自分達だけ作動させていれば、他の船を犠牲にしても逃げられるのではないか。船長の内心を読み取ったヤンは心底呆れ果てたが、人間の本性は動物である以上自己保身であり、自己犠牲ではないのだと自らに言い聞かせて、努めて冷静に応えた。
「どんなに偽装を凝らしても、いずれ帝国軍には発見されるでしょう。ですがその時にレーダー透過装置を稼働させては、自らが人工物であると主張してしまうことになります」
「はぁ……そういうものですか……」
「生き残るためです。その為に透過装置は作動させない。船長申し訳ないですが、部下の皆さんにもそれを徹底させてください」
「了解しました」
不承不承の体で敬礼する船長に、ヤンは小さく答礼した後、再び管制センターからの情報を見つめた。最大出力でレーダー透過装置を作動させている駐留艦隊は一時間前に出港しており、僅かにパッシブで確認できる進行方向もエルゴン星域管区への最短コースを取っているように見える。包囲網が完成される前に振り切ってしまおうというものだろう。跳躍可能な星系外縁部に到達すれば、逃げ切れる可能性は充分ある。
だがあまりにも直線的すぎる動きは、帝国軍の哨戒艦の注意をひくに十分だし、帝国軍が逃走阻止のために配置を変更するのも難しくないだろう。透過装置への過信とその利用に対する固定概念は帝国も同盟も関係ない。思い出せば、同期の首席に戦略シミュレーションで勝ち続けられたのも、彼の先入観を操作できたからではないか。最初の一勝は正面決戦に固執させ、次に補給線を必要以上に意識させ、そして自分と対戦するに際して受動的な心理状態へと追い込んだ。今回のような脱出作戦は二度とやりたくはないが
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