閑話2 エル・ファシルにて その2
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指揮官が誰だかはわからないが、極めて常識的な戦理に則っている。
それに対しリンチ司令が指示した陣形は集団毎の分散逃亡を企図しているのだろう。ある一定の距離までは集団で行動し、帝国軍に捕捉された時点で打ち上げ花火のように集団を分散させ、帝国軍の包囲網を機動力で食い破ろうという作戦だ。
作戦としては悪くない。四〇〇〇隻の帝国艦隊が分散した同盟艦隊を各個撃破するにしても、全てを捕捉・撃滅するのは難しいだろう。ヤンの直観では二つないし三つの集団は安全な後方へと逃げ切れる。戦艦や重装艦とそれ以外の艦艇が別集団というのも、移動速度を考慮に入れた判断だろう。そしてレーダー透過装置もなければ船速も不揃いな民間船舶は、この作戦の足を引っ張る最も邪魔な存在だ。
「ありがとう。よくわかった」
ヤンは管制官に礼を言うと、宇宙港のロビーへと戻る。日差しがゆっくりと差し込み、ロビーの床に腰を下ろし休んでいた人達が目を覚ます。緊張感から寝ていない人もいるが、最初の一夜が明けて狂騒はわずかなりとはいえ収まりを見せている。寝ている人を避けながらヤンは、滑走路が一望できるコーナーまで来て肩を預けた。眼下では民間人の荷物や食料物資を貨物シャトル積み込む作業が続いている。
「中尉さん」
ヤンが振り返ると、そこには両手に紙コップを持ったフレデリカ嬢が立っていた。
「ご注文通り、ホットティーです。どうぞ」
「あぁ、ありがとう。ミス・グリーンヒル」
「フレデリカでいいんですよ。中尉さん」
首をかしげる少女に、ヤンは苦笑して肩を竦めた。湯気を上げるホットティーは、宇宙港のキオスクで販売されている品ではあったが、いつもよりはるかに美味く感じられた。
「フレデリカさん、ご家族は?」
胃が温まり人心地ついたヤンは、自分の隣で同じように紅茶を飲む少女に問いかけた。明らかに生活苦とは無縁の、それでいて自己主張しない上品なジャケットとパンツルックから、ヤンはそれなりの地位にある人の家族だろうと推測してはいた。
「母の実家がここなんです。療養もかねて短期の里帰りだったんですけど」
「お母様は大丈夫なのかい?」
「ロムスキー先生がすぐに診察してくれて。今は大丈夫です。先生、中尉さんのこと褒めてらっしゃいました。危機的状況下にあるにもかかわらず民間人の医療体制を最優先で構築してくれた、若いのに頼りになる軍人さんですって」
「は、はははは……」
ロムスキー医師に特に配慮したわけではないが、結果としてフレデリカの母親を手助けしたことになり、ヤンは少し落ち着かなかった。それをごまかすようにヤンは、フレデリカに他の民間人の健康状態や食料の配給状況、心理状態などを次々と問いかけると、フレデリカも立て板に水を流すように整然としかも簡潔に応えた。ややパニック気味
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