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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
閑話1 エル・ファシルにて その1
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を無言で抗議していた。その一つを口に放り込むとヤンは民間宇宙港ターミナルロビーの高い天井を見上げる。

 三〇〇〇隻対三五〇隻。まともに艦隊決戦を行うなど自殺行為以外のなにものでもない。増援と言っても、エル・ファシル星域内にあるのは他の有人星系の警備部隊で、あわせても三〇〇隻に満たない。大規模に纏まった戦力と言えば後方のエルゴン星域しかないだろう。それだって二〇〇〇隻前後だ。ダゴン星域で戦っている第三艦隊がすぐさま転進して来ない限り勝ち目はない。

 にもかかわらず、リンチ司令官をはじめとした司令部は脱出計画についてヤンとこれまで一度も相談していないし、報告するよう促してきたことすらない。戦って勝てないのは誰でもわかっているのに何故か。その状況を納得できる結論にヤンは達し、少なくない衝撃からサンドイッチを喉に詰まらせた。

 慌ててヤンは胸を叩き吐き出そうとするが、虐待に対するサンドイッチの恨みは深いらしく、適度に乾燥した薄い生地が喉に張り付いて余計苦しくなる。こんなところで中途半端に、しかもサンドイッチを喉に詰まらせて死ぬのか……小さな闇が見えた時、ヤンの目にコーヒーの入った紙コップが差し出された。慌ててそれを手に取り、一気に喉へ流し込む。コーヒーと共にサンドイッチが強制的に胃に流れ込んだことを感じると、肩を落として二度深呼吸し……不思議そうな目でこちらを見つめる少女を確認した。

「助かった。ありがとう。ミス……」
「グリーンヒル。フレデリカ=グリーンヒルです。フレデリカって呼んでください。中尉さん」
「……」

 金褐色の美しい髪をした美少女に救われた気恥ずかしさから、ヤンは思わず紙コップを握りしめた。その行動にフレデリカと名乗った美少女の眉が一瞬寄ったが、それを認識するほど気持ちに余裕がなかったヤンは、思わず本音を漏らした。

「コーヒーは嫌いだから、紅茶にしてくれた方が良かった……」
「……」
「え、あ、ごめんごめん。助けてくれたのに失礼だった」
「いいんです。中尉さん。見てましたけど本当に忙しそうですもの。一生懸命お仕事されてるのはわかってますから。でも食事はゆっくり、ちゃんととってくださいね?」
「ありがとう。ミス=グリーンヒル」
「フレデリカ、です。また時間があったら持ってきてあげますね。中尉さんはアイスとホット、どっちがいいですか?」
「……ホットで」

 ヤンは小鳥のように手を振って去っていくフレデリカの姿に、自分はそうじゃないと言い聞かせつつ、何となく背筋が寒くなるような感じを覚えた。彼女の命運も、自分の手の内にあるという恐ろしさを。それゆえに確認しなくてはならないことをヤンははっきりと認識できた。リンチ司令官とはそれほど長い付き合いでもなく、それほど親しい上官でもない。司令官と一幕僚。ただそ
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