閑話1 エル・ファシルにて その1
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協力者達の顔つきを前に頭を掻きながらヤンは応えた。
「ですが、ご安心ください。船舶の調達は順調です。誰一人残すことなくエル・ファシルを脱出することはできるでしょう」
「……それは、本当かね?」
やや若さが残るが、知識と知性を感じさせる協力者の一人の医師がヤンに問うた。勿論ヤンには完全な自信があるわけではないし、成功の見込みなど逆に保証してもらいたいくらいだ。
だが、そんなことを言っても仕方がない。正面に立つ医師はともかく、他の協力者のヤンを見る目は厳しい。中尉という階級の低さから、軍が真剣に脱出計画に携わるつもりがないと勘繰られるのは無理ないことだが、非協力的になられては元も子もないのだ。裏打ちに値する実績がないのは……まぁどうしようもない。
「ええ。大丈夫です。ですから皆さんも落ち着いて鷹揚に整然と行動してください。もし不安に思っている人が近くにいたら、傍によって勇気づけてあげてください。困っている人が居たら手を差し伸べてあげてください。お願いします」
ヤンは深く頭を下げた。頭を下げて何とかなるなら、いくらでも下げよう。士官学校で話の分かる先輩が言っていたではないか。好き嫌いで逃げることなく、なるべく手を抜かずに努力せよと。気持ちが通じたわけでもないが、協力者たちは戸惑いの表情を浮かべ、お互いの顔を見合わせる。その中で最初に口を開いたのは、やはり若い医師だった。
「わかりました。ヤン中尉、でしたな。私達にできることがあれば遠慮なく言ってください」
「ありがとうございます。ドクター……」
「ロムスキーです。総合中央病院の救急センターに務めてます」
「よろしくお願いします。ロムスキー先生、他の医師の方と連絡は取れてますか?」
「なにぶん、この混乱状況です。今どこにいるかどうか……」
「これから宇宙港全体に放送を掛けます。ロビーの数か所に野戦病院を開設しますので医師の方にはご協力を頂きたいのです。移動にはカートを使って構いません。最優先です」
「わかりました。お任せいただきたい。中尉が脱出計画に専念できるよう、我々も軍の指示に従います」
ギュッとヤンの手を握るロムスキーの握力に、ヤンは一瞬たじろいたが痛がるわけにもいかない。そのロムスキー医師に促されたように他の協力者たちも次々と握手し、それぞれ若干の不安の表情を浮かべつつも協力を約束する。
彼ら協力者一団が離れた後、ヤンは宇宙港ロビーでのけんかの仲裁、大気圏外シャトルの運航計画の承認、軍事物資と行政府保管物資の放出についての手続き、及び民間病院の医療品物資統制を指示したのち、朝配給されたサンドイッチを持って一人ロビーの片隅にあるカウンターに向かった。袋を開くとかなり変形して中身がこぼれかかっているサンドイッチが、捕食者に対して不必要な虐待をしたこと
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