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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
閑話1 エル・ファシルにて その1
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溜息をついた。ツイてないといえばツイてない。が、襲い掛かってくる一〇倍以上の敵と戦うのは無謀以外の何物でもない。司令部の防衛計画がすぐに脱出計画に変更されるに違いないが、とりあえず早急に民間人脱出において船舶の手配などを纏めておくようにという内示と考え、ヤンはらしくもなく勤勉に行動を始めた。

 エル・ファシル星系の人口は約三〇〇万人。エル・ファシル星域全体では五〇〇万人になる。幸い星域内の他の星系に帝国軍が向かったという情報は届いておらず、星域最大の要衝エル・ファシル星系に照準を合わせて帝国軍も戦力を集中しているのは司令部の分析からも間違いない。故にヤンとしてはエル・ファシル星系のみの脱出計画を練り、残りの星系に関しては事前に状況を伝え、各星系の駐留部隊に脱出計画を練ってもらうしかない。そこまでこちらが計画する権限はないと、ヤンは判断した。正直言えば一つの星系だけで手間取るのに、星域管区にある残り一〇個の星系にも同じことはしていられない。

 まず三〇〇万人について行政府に住民人口等のデータを。次に現在エル・ファシル星系内に停泊している民間船舶―貨物船やタンカーなども含めて―の確認とその一時的な強制収用手続きを。そして脱出コースの検討。とても一人ではできる仕事量ではないので、軍港管理部や補給管理部から何人か融通してもらい、宇宙港の小会議室を借り、そこに行政府側の担当者及び航宙企業の運用部門担当者と共に計画を練る。

「食糧輸送船やタンカーにも住民を乗せるのですか?」
「持ち運びできる一人当たりの荷物重量が二〇キロではとても足りませんよ!」
「押し寄せている民衆が宇宙港だけでなく軍用宇宙港への立ち入り許可を求めています」

 次々と下士官や兵士達がヤンに問題を押し付けてくる。誰かに助けを求めたくても、現在脱出計画の指揮官はヤン自身である。部下というより協力者のようなチームの各員に対応を任せるのもヤンの権限であり責任だった。

 こうなったら出来ないことは出来る人に任せる。ただし責任は自分がとる。はっきりとそう割り切ったヤンは問題を全てチームの中の担当者と思しき人物たちに任せ、自分は彼らから集められる報告と、彼らが手に余ると判断した問題を解決することだけに集中した。それでも寄せられる問題は多い。特に民間人と軍人の間に発生するトラブルが特に。

 さすがに計画のトップがこれから逃げるわけにはいかない。軍人や行政府役人達は、脱出計画自体の細部を詰めるために労力を割いているため、民間人の不安の解消というほとんど解決することができない問題に関与する暇はない。ヤンは脱出コースの検討書類だけ端末で持ちながら、宇宙港へと向かった。

「君が……脱出計画の責任者なのかね?」
「はぁ、まぁ……そうなります」
 明らかに失望を禁じ得ない民間人側
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