第46話 隣地の草刈り
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悲鳴か息継ぎかわからない声を上げつつ連行されていくトルリアーニを見送ったあと、主のいなくなった執務室の端末を叩きながら内部を漁りつつ、バグダッシュは俺に言った。なにを言いたいのかよくわからないが、応じないわけにはいかない。
「一つ上の首席卒業者は、ウィレム=ホーランドっていうんですが」
「……あぁ、理解しました。ボロディン大尉のほうが異端なんですな」
鼻歌交じりでカチカチと端末を叩きながら、バグダッシュはとんでもないことを言う。
「人づてに聞いたことがありますが、ホーランド大尉は典型的な軍事指揮官で参謀としても優秀ならしいですな。まぁそれ以上でもそれ以下でもないですが」
「それでも十分では?」
「アナタと比べるまでもない。立ってる視点の高さも広さもまるで違う。大人と子供ですよ」
情報部員は監禁しても起きている限り油断できない。そう言ったのは誰だったか。バグダッシュの言う俺とホーランドに対する評価。戦略研究科卒業生としてそうあるべきだと数年前グリーンヒルに告げたことを、もしかしてバグダッシュは知っているのだろうか。俺が黙って書棚にあるファイルをぱらぱらとめくっていると、クックッとせき込むような笑いでバグダッシュは続ける。
「不思議な人だ。子供っぽいところもあるし、抜けてるところも多い。なのに事があれば隙なく無駄なく躊躇なく行動できる。如何にも模範的軍人な外面なのに、飲酒を咎めようとしない。首都からこれほど離れた場所で、直接の知人でもないトリューニヒトの長い手を見抜いたのは最早驚異だ。それでいて才走るところもなければ、功名餓鬼でもない」
「最近の大尉は随分と多弁ですね」
「多弁になりますとも。これでも人を見る目はあると思ってますが、これほどまでに矛盾を抱え込んだ人と今まで一緒に仕事したことがなくてね。この任務が終われば次いつこうやってお話しできる機会があるかわかりませんからな」
多弁でありながら端末の上を動く指の動きに乱れはない。五分ほどでケリが付いたのか、バグダッシュは私物の端末を起動させ、トルリアーニの端末のすぐそばに置くと、検察長官用の本革張りリクライニングを大きく傾けて天井を見上げた。
「ボロディン大尉、軍人なんかやめて政治家になったらどうです?」
「なんです、いきなり?」
「軍人としても優秀だ。それは間違いない。アナタが指揮する部隊……いや艦隊はきっと宇宙にその名を轟かすでしょう。だがアナタが艦隊を指揮できるようになるまでには恐らくあと二〇年はかかる。今の情勢だとそれまでに帝国軍との戦闘で戦死する可能性が極めて高い」
「……かもしれませんね」
「今すぐは流石に無理ですが、アナタの能力からすれば前線で無理しなくても三〇代半ばで准将にはなれそうだ。その時点で退役し、政治家として登壇するんです。情報将校とし
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