第45話 マーロヴィアの後始末
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受についての証言調書だった。
「ケリムでも痛感しましたが、情報部の方々の有能さはまるで魔法使いのようでホントに頼りになるというか……コレ、造り物じゃないですよね?」
「造り物でここまでリアルにできれば、情報部員として超一流といえるんですがねぇ」
「結果としてバグダッシュ大尉はお一人でマーロヴィアに巣食う海賊を手玉に取ったわけですが、後学の為に伺いたいんですが、テクニックはともかく情報部員として必要な才覚って何です?」
「冷静さと度胸ですよ。それも大して難しいことじゃない」
バグダッシュは鼻で笑うと、パイプ椅子を逆にして座り、背もたれに肘を当てて意地悪そうに言った。
「相手にするのは所詮人間で、異世界のバケモノじゃない。人間である以上、欲があり、感情がある。金も異性も名誉も、つまるところ形を変えた欲でね。物を取引する貨幣と同様に、欲を取引するのは情報なんだ」
「ただ情報はベクトルであって、金銭のように数値だけじゃない」
「おっしゃる通り。ベクトルから方向性を取り除くのが冷静さ。好きな方向に無理やり動かすのが度胸ってわけだ」
「そうなるとブロンズ准将の言われる通り、自分には無理ですか」
「いや素質はある。単純に性格が向いてないだけですよ。人生経験が少なくて隙だらけってのもありますが、一番問題なのはあまりに欲がないということですかな」
「欲がない? そんなことはないと思いますが?」
「一見すると生活苦とか経験したことのないお坊ちゃま特有の青臭い無欲さに見えるんです。そういう世間知らずは『正義』とか『道義』とか調子のいい言葉でいくらでも操れる」
こちらから話を振っただけだったが、バグダッシュはどこからともなく出したコルク抜きを、左手の指の間をグルグルと回しながら饒舌に話し続ける。
「貴方は違う。事に当たって必要とあれば法を踏み越えることも躊躇わない。かと言って良心や善意や遵法精神のないサイコパスでもない。今は上官がいて、命令があり、任務がある。そういった拘束が無くなった時、あなた自身が何をしたいのか、正直なところ分からなくてね」
「……」
「ただ今回、ご一緒して分かったことが一つだけありますよ」
「……それは?」
「貴方が私の上官になった時は結構楽しいだろうな、ってことです。適度に難易度があって好きなように仕事ができて、勤務中に酒が飲める職場って、そうそうないですからな」
バグダッシュの手にはいつの間にかワインボトルがあり、今まさにキュポンと音を立てて栓が抜かれたのだった。
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